はじめに

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・・・・・・さらに続いた拙作パロ「POTATO PARTY」の別バージョンが下のお話
題して「もうひとつのPOTATO PARTY」です……。




ほたるもいっしょ 



ダイニングの前の廊下にはすでに先客がいた。
閉ざされた扉を恨めしそうに見上げながら、ほたるがにゃあにゃあ鳴いている。
響生の姿に気がつくと、脱兎のごとくに走り寄り足元にまとわりついた。
「なんだ。おまえも呼ばれたのか?……それとも閉めだしを食ったか」
抱き上げてやると、この邪魔物をなんとかしろとばかりに響生の顔を覗き込みガラス戸を見ては
にぃにぃと訴える。
飼い主を飼い主とも思わないその尊大な態度に苦笑しながら、引き戸を開けた。
とたんに、丁度振り返ったケイとまともに眼が合い、互いに抱えているモノに一瞬言葉を失った。
ケイの手にはジャガイモを山盛りに載せた大皿が、そして響生の腕には黒猫が。
「……」
「………」
ふたり分の沈黙が醸す微妙な間にもかまわずに、ほたるは腕からもがき出て床に着地すると猛烈な勢いでケイの足にじゃれつきだす。
その仕草にようやく我に返ったようにケイが視線を落として呟いた。
「あちゃー。…おまえも来ちまったか……」
「いけなかったか?」
「……んー。まずいと言えばまずいんだけど……いまさら追い出すわけにもいかないよな。……こいつにも相伴させていい?」
「かまわんが……」
果たして食べるのか?と素朴な疑問を響生は飲み込む。どうみてもケイの手にしているものは丸のまま蒸したジャガイモで、しかも出来たてらしく盛大に湯気を立てているのだから。これほど猫に似つかわしくない食べ物もないかもしれない。
響生の心中を察したらしく、ケイが困ったように鼻を掻いた。
「冷ましてやれば大丈夫だと思うんだけど……たぶん、こいつがほしいのは、その、イモ本体じゃなくて、イモにつけるバターの方だと思うんだ」
「バター?!」
「……うん。一度舐めさせてやったら、なんか病みつきになったみたいで」
絶句する響生を、悪戯をみつかった子どものように首を竦めてケイが見た。
「……悪いかなとは思ったんだけど……一人で食べてるのはどうも味気なくて、ほたるが食べたそうにしてるもんだから、つい、いろいろやっちまって……」
響生が呆れたようにため息をつく。
「そんなにこいつをデブネコにしたいのか?」
「あ、でも、バターはオレの指に塗ったの、舐めさせただけだから。そんなに量はいってないと思う」
「……当たり前だ」
憮然として響生が言った。
「道理でほたるがおまえに懐くわけだ。餌付けされていたんだな……」
それだけではないことを百も承知で口にする。その口調は苦言でも、響生の表情はきつくはなかった。
それに救われたように、ケイが訥々と話し出す。
「朝、パン焼くだろ?そうすると匂いに誘われたみたいにこいつが寄ってくるんだ……。いかにももの欲しそうな眼で。だからつい……。 あ、でも、余計に食べさせてる分は責任もって遊んでやって運動させてるからっ!だからプラマイゼロってことで絶対デブネコにはしないからっ!」
真剣に言い募るケイの貌こそが見ものだった。引き締めても引き締めても自然に頬が緩んでしまう。不機嫌を装うのもそろそろ限界かと響生が口を開きかけたとき。
「ぅにゃあああおっっ!!」
ほたるが待ちきれないとばかりにどすを効かせて一声鳴いた。
あけっぴろげな催促に毒気を抜かれ、ふたり同時に顔を見合わせて吹きだした。

「…あんたは座っててくれよ。今、仕度する」
そう言って、大皿をテーブルに置き身軽になったケイがこまねずみのように動き出す。
そのズボンの裾には常にほたるがぴったりと寄り添って、まるでダンス競技を見ているようだ。ケイも慣れているのか苦にした様子もなく、その流れるような足さばきには迷いがない。
……タンゴというよりはワルツ、いや、むしろフォックストロットのテンポだな…
きびきびしたひとりと一匹の思わぬ舞踏に、響生は再び笑いをかみ殺した。

やはりバターはまずいと言う響生の頑強な意見で、結局、ほたるの皿には、低カロリーのささみのスモークが置かれた。
前脚で抱え込むようにして夢中になってジャーキーをしゃぶる黒猫の頭上では、ケイと響生が、やはり寡黙に熱々のイモに取り掛かっている。
風味豊かなバターと岩塩という基本の組み合わせを堪能した後、ケイは新たな味を追求すべく、 冷蔵庫からガーリックパウダーやバジルペーストやクリームチーズを探し出してくる。
そのたびに、ぴくりと耳を揺らして食餌を中座したほたるがケイに従う。まるで片時も離れられない恋人か、保護者みたいに。
そのくせ、一度、響生がビールを取りに席を立っても、彼女はしらんぷりなのだ。黙々として肉に取り組み、飼い主の動向には見向きもしない。
そのあからさまな差別に響生が気づいて苦笑した。
猫のランク付けには容赦がない。
俺はせいぜいが雑用係の下っ端か……。
どうやら、ほたるにとっての最上位の人間はケイということらしい。いや、人間ではなく同族とみなしているのかもしれない。
幸せそうなオーラを振り撒き無心に食べているケイはまさしく満足して目を細める人型の黒猫そのものだったから。
……いずれ、ケイをほたると張り合う羽目になるのだろうか?
そんなことを考えてにやついている響生を、ケイが不思議そうに見上げてきた。
「ん?ナニ?」
「いや、なんでも……おまえの顔にイモが付いている」
言うそばから身を伸ばして、指先でケイの口の端から小さなかけらとペーストとをすくい取る。
躊躇う様子もなくその指を口に運んで舐め取った響生の仕草を、目を丸くして固まったままケイが見つめていた。
「どうした?」
「吃驚した〜〜〜」
脱力したようにずるずると椅子にもたれてケイが呟く。
「あんたってすっげー潔癖症だと思ってたから。口の周り拭けってティッシュ投げつけられることはあっても、今みたいなマネされるなんて、ちょっと不意打ちだった……」
まるであまい恋人同士みたいじゃないか……とは、言葉にせずに内心に収めておく。指を舐める響生の舌先が見惚れるほど艶っぽいと思ったことも。
「まあな。……ちょっとしたデモンストレーションだ。気にするな」
「ナニ?それ?イミわかんねー」
きょとんとするケイを見つめて、ふっと微笑む優しい眼差しは果たして『親猫』のものなのか、愛人志願者のそれなのか……。

不審を表情に残しながらも再びジャガイモを頬張るケイと、皿を空にして満ち足りた様子で顔を洗い始めたほたるを交互に見遣る響生の貌には、微笑がいつまでも浮んでいた。







……すいません。つい調子にのって自分のパロ原稿のさらにパロな話を……(苦笑)
全部一本に詰め込めればよかったのですが、イモとほたるは両立できず、でも、ばっさり切り捨てられず落穂拾いの話に……。
なんか切れ端野菜で節約料理つくる主婦みたい(笑)……地でいってます(^_^;)私。
で。オトナゲなくネコと張り合うれんじょって………、どーよ???(笑)
ケイちゃんにしてみせたマーキングは間違いなくほたるに対する示威行動でありました……(-_-;)




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