gentle snow 2 





東の空に星が流れた。
また一人、この世に鳳雛と呼ばれる次期帝候補が生れ落ちる兆しとして。
その眩い光の帯を見ながら無意識に数を数える。この標を見るのはこれでいったい何度目だったかと考えながら。
今上帝の在位の歳月を鑑みれば、おそらくこれが最後、そして最年少の鳳雛となるはずだ。 すでに成年に達し政の一翼を担っている先達には到底太刀打ちできまい。
天帝の位は世襲ではない。 けれど、暗黙のうちに厳然とした長幼の序列は存在する。
生まれながらに等しく資質を授けられながらすでに時期を逸した皮肉、帝位に遠く及ばずただ無為に飼い殺されるであろうその行末を思って、 直江は薄く笑った。
一人の鳳雛がどんな命運を辿ろうと、係わりのないことだ。
天界と同じ始祖を祀りながら遥か遠い神話の時代に彼らと袂を分かった一族の末裔、異形を統べる公子の一人である我が身にとっては。
そうして星見の露台を離れ、星の予兆もほどなく忘れた。

最初は、その程度のことだった。

幾つか季節が巡った頃、流浪の民が天界の噂を届けてくれた。
なんと今度の鳳雛は、人の子として世に現れたという。あまりのことに我が耳を疑った。
在り得ないことではない。元々、鳳雛は身分や血統に関係なく出現するものだから。 在り得なくはないが、非常に稀有なことであるのも事実だった。
鳳雛は見出されたその瞬間から天宮が一切の養育を担うのが慣わしだ。が、 そもそも脆弱な人間(しかも子どもだ)の身体では天界に迎え入れることすら難しいのではないか?
思わず問い返すと、相手はしたり顔で頷いた。
だから、鳳雛は、本来の力目覚めるまで、この大地の何処か、強固な結界を張った仮宮で大切に育まれていると。

それを聞いて胸が騒いだ。
褒美を取らせて民の長を下がらせると、公子はすぐさま、四方八方に式を飛ばした。 大地すべてを隈なく検分するために。

己が微行も数知れず。
とある国の外れ、なんの変哲もない山間の林にたどり着いたのは、また数年の月日を経た頃。
その日は、この地には珍しい雪が降っていた。




戻る/次へ








「公子」といったら「闇の公子」(即答)!!!
あの流麗かつ綺羅綺羅しい文体とキャラに死ぬほど悶えました
直江さんじゃ迫力足らないんだけど(爆)
なんとなくお偉いさんなんだよ?というイメージだけ汲み取ってくださると嬉しいです






BACK