初春や 「福袋……ですか?」 応接セットのガラステーブルの上に、銀色の紙袋が二つ。 「……下着、の?」 中身を出せば、透明な袋に入った・・それが二組。 「ってか、ぱんつ」 高耶は元気よく答えた。 「すっげだろ、六枚で二千円! さすが正月! さすが初売り!」 少年は、ううう、という顔になった。 「………キャラもの、の」 「そ! ちゃんと版権マーク入りの。さすが一流メーカー、パチもんじゃない! 商品化権料払ってる!!」 ソファにでん、とそっくり返った高耶の満面の笑みに、義明は今度は口の中で唸った。 「一袋やる、って……。だって、これ」 袋の中に綺麗に畳まれ、重ねられて入っているトランクスやボクサーパンツの色合いを観察しながら、少年は唇の端をちょっと引き締めた。 「両方とも同じ物が入ってるみたいですが」 「ま、福袋だから、そーゆーこともあるな」 高耶のご機嫌はうるわしい。義明少年の表情は、かなりの暗雲ものなのだが。 「………サイズ同じで、同じ柄……って、どう所有権を見分けるんです」 「名前書けばー? オレんち、そうしてた」 義明は、もう一度しげしげと袋の中を見つめた。 「……みんなウェストが黒ゴムですけど」 マジック見えないじゃないですか、とぼそぼそつぶやいたところで、義明は、あ、と顔を上げた。 「半分トレードしましょう!」 「半分? えー、おそろいでいいじゃんか」 かわいこぶりっこの声は、少年のクールな視線に叩き落され、高耶はいじけて、ソファにでろんと転がった。 「いい、いい、わかった。好きにしていい」 言葉には気をつけるべきだ。特に、 「いいですか?」 間髪を入れずに返った相手の声が、心なしか弾んでいた時は。 「じゃあ、これと……これ、これっと」 バリバリと袋の接着面を開き、中身を詰め替える音が素早い時も。 義明は、すいと立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。 「ありがとうございます。あと、これはあくまでお願いなんですが」 んう?と高耶が目を上げると、少年はもうリビングの出口に足を向けていた。 「サ○リオ猫とデ○ズニーのモンスターは苦手なんです。あと赤い下着って還暦祝いみたいで、笑えちゃいますよね」 肩越しにこちらを見て、にっこり笑う。 「そういうパンツで、その辺うろうろしないで下さいね」 自室へ向かったその背中をぽーっと見つめてから、高耶はがばっと起き上がって、テーブルの上の包みを手に取った。 灰色とモスグリーンのまだら模様の上に、サ○リオ猫。 鮮やかなコバルトブルーと水色のしましまの上に、デ○ズニーのモンスター。 まっかっかの地に、ねずみーらんどの人気キャラが小さくぽつん。 三種類、各二枚。 高耶は声なくソファにつぶれた。 しかし、ややあって。 「……オレは可愛いと思うなー」 彼は不撓不屈の――好みの持ち主なのだった。 初春や 運気試しの 福袋 了('09・1・4)
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