カフェ「nowhere」の素敵な午後



「『松』の大盛りで」
 やったよ、やらかしましたよ。
 あたしは、ううっと身をすくめて隣りの少年にすがりついた。
 あ、細くなってるなー、と一回り痩せた身体にちょっと心が痛んだけど。
「せめて普通のに……」
 穏やかに言ったけど、少年もかなりびびってるな、と肩のこわばり具合で察した。
「いや、大盛りで」
 なんで腕組んでそっくり返るのよ、そこで。イミわかんねー!
「え、なになに、何だそら?」
 やつの左側、この状況が飲み込めていない男が、眼鏡の真ん中を押し上げて店の中を見回してから、メニューに目を落とす。
 ってか、その店ん中見回すってなに!? 居酒屋じゃねーよ、ここは。サテン、ってか今はおされヽヽヽ(・・・)に「かふぇ」か。
「へ? あ? 松……竹……アイスココア!? つめてーココアのマツだのタケだのってなんなんだ!?」
 メニュー持ち上げて顔のまん前に持っていくな。そんなことしたら。

 ばふ!!

 そっくり返ってた胸の前の腕を解いて、景虎が予想通りメニューを長秀の顔に激突させた。
「ってってっ!! 何すんだ、バカ虎!!」
「早く決めろ、ぐだぐだすんな」
「ンだとぉ!?」
「あ、あの!」
 少年が割り込む。
「俺はコロンビ……」
「コーヒーはやめとけ」
 横暴君主が、ふん、と腕を組み直した。
 少年は、ふう、と小さく息を吐いた。
「じゃ……アイスティーで」
「アイスミルクティー、な」
 はいはい、確かにミルク系は胃に優しいけどね。
 この過保護ぶり、どうしてくれよう。
「あ、おねえさん、お願いしまぁーすv」
 陽気に店員嬢を呼ぶあたしを、向かいの長秀が、おい、と止めようとする。
「だいじょぶだいじょぶ、あんたのも頼んだげるから。えーと、いいかなぁ?」
 すっきりと髪を止め上げた丸顔の可愛いおねえさんに、あたしはにっこり笑いかける。
「ブレンドのホット、アイスミルクティー。それから、アイスココアの『松』の大盛り、ってできます?」
 爽やかに聞くと、おねえさんはちらりとカウンターを見やり、口の動きだけで尋ね、無音の返事を受け止めた。
「量が1.5倍、でよろしいですか?」
「ええ、けっこうよ」
 あたしは「にっこり」を倍増しにして、大きく息を吸った。
「それから、このメニューの最初の『ウルトラ・スーパー・メガ盛り特選パフェ・スペシャル拡大版』を」
 目を見張った彼女に、うふ、と小首をかしげてみせる。
「おっきいスプーン4つくださいね。だーいじょーーぶ! 屈強な男性陣が3人もついてますからぁ♪」

 あたしは「笑顔超特盛り」でシメた。




                 了        (‘10.6.19)



このおはなしはフィクションです(爆!)。
いえ、大家さんの米沢での体験のお話に
想を頂きました。ありがとうございます(ぺこ)。

(塚戸さんコメント)


・・・思いがけずの四方山話にこんなオチがつきました♪
塚戸さんってば、お仕事速すぎ(^^)v
ありがたく拝領いたします。どうもありがとうございました


2010/6/20





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