思わせぶりに伸ばされてきた彼の腕。 スーツをはだけ、タイを解き。 シャツのボタンを外していく指先を男は凝と見下ろす。 若々しく張りのある、大きさもほとんど自分のそれと変わらない手。長い指。清潔に整えられた爪。 その爪で小さな貝ボタンを摘みボタンホールを潜らせるのに、彼は少し苦戦している。 自分のときとは鏡写しの、他人への奉仕にはまだ慣れていないから。 俯いたその表情は見えない。けれど、 たぶん、彼は眉を寄せ、この上なく真剣な瞳をして両手の指先に集中しているのだろう。 だからその手を引き寄せて口づけたい衝動を堪え、される儘になっている。 ひとつボタンが外れるたびに、じりじり下がる彼の眼差し。手。 そのすべてが熱を帯びている。 と、それまで眼下にあった彼のつむじが突然動いた。 緩めただけのネクタイがどうにも邪魔になったらしい。手はボタンに掛けたまま口に銜えはねのけようと首を振って―――、 まともに彼と目が合った。 逸らされるかと思った。 一瞬で赤くそまった眦がその証拠、でも彼はそうはしなかった。 視線は逸らさず、むしろ挑発するみたいに交じらせあって彼は全部のボタンを外し、その掌を素肌に滑らせる。 下から上に、じわじわとセクシャルなタッチで。 堪らない。 タイを銜えたままの唇がつりあがる。肉食獣の笑みのように。 欲しいか? 言葉にしない問いかけに、煽られる。 堪らない。 男もまた同じ笑みを刻んで、ことさらにゆっくりと彼の腰に指を這わせた。 |