はじめに

デキちゃった…。デキちゃいましたよ!みなさん!!(笑)瓢箪から駒というか、焼けぼっくいに火というか。
一年前のメールのやりとりを言質にとって海さんとお互い煽りあっているうちに、なぜか当日夜の話まで!
ちなみに海さんは翌朝編を担当してくださいました。「FALLEN ANGELS」圧巻です!!今すぐ海さん宅「とるすのびっくり箱」へどうぞ。
しなやかでしたたかなこれぞ真打ち葛川蛍!といったケイちゃんと、そのケイちゃんでさえ見惚れるほどのオトナノオトコである連城響生が
これでもかっ!!というぐらい読み手を翻弄してくれます。…というか、されました。私(笑)同じキャラ書いてなんでここまで違うかな?(嘆息)
とは、もう虚しいから脇に置いておくとして。以下に続くのは海さんの「VACATION」のパロパロ第二弾、拙作「SARAYCAT」の前夜にあたります。







andante



まるで雲の上にいるみたいだった。
たらふく食べて、酒量はほどほど……そんなカシコイ飲み方をしたつもりだったのに、それでも酔いはまわるものらしい。
店を出るまではそうでもなかった。途中のタクシーの中でだってしゃんとしていられた。
それが、この部屋に帰り着いたとたんに急に腰が立たなくなったのは、それだけ気が緩んだということなのだろうか。


「しばらくそうしているといい……ほら」

「……どうも」

ソファにもたれパタパタと手団扇で風をおくっているケイに、響生が笑いながら冷えたペットボトルを手渡してくれた。
半分ほど一気に飲んで息をつく。残りをほてった頬やおでこに押し当てて涼をとる。
そうこうしているうちにエアコンが効き始めたのだろう、ひんやりとした空気の流れを顔に感じた。

いつのまにか、響生の姿が消えていた。
一人になった室内にかすかに響く空調の音。
不思議に居心地の悪さは感じなかった。
ほたるそっくりの仕種でもぞもぞと身体を動かしいい感じに落ち着いて、うっとりと眼を閉じる。
眠る気はなかったが眠ってしまってもいいかもしれない。今の、この場所でなら。
そんなふうに安心できる場所。
それが響生の部屋だということが、以前から薄々感していた必然のようでもあり、思いがけない僥倖の賜物という気もする。

オレは…ここに居てもいいんだよな?あんたの傍に。

こんなふうになったのは……あんたにとっても予定調和?それとも、ただの成り行き?


とりとめなく思考を遊ばせるうちに、 どうやらケイは本当にまどろんでいたらしい。
漂ってくるせっけんの香りと人肌の気配に意識が覚醒した。

連城?

冷えた頬のすぐ傍まで温かさが近付いている。
ちりちりと、うぶげが逆立つみたいに感じ取れる響生のオーラ。
羽毛のタッチで指が触れる。温かく湿った掌の感触が冷えていた肌をゆっくりと滑っていく。

ケイ?眠ったのか?柔らかく囁かれる。

キスが欲しい。唐突にそう思う。
このまま寝たふりをしていれば響生がそうしてくれそうで、ケイはあえて応えなかった。

望みどおりに唇が降りてくる。二度三度と触れられる。
シャツの裾から熱い手が忍び込んできて素肌をまさぐる。
堪えきれなくて、今、気づいたように瞼を開けた。
視線が合った。
悪びれもせずに、響生は口づけを繰り返す。

「……んっ!」

ようやく解放された時はすでに眠気は吹っ飛んでしまっていた。

「すんの?」

「イヤか?」

「…………」

すぐに返事は返せなかった。

……いやじゃない。いやじゃないけど……、あの激痛を伴う交合はもう遠慮したいというのがほんとのところ。今の正直な気持ち。
急流にもまれるような激しい快感はもういらない。優しいキスだけであのまま眠ってしまいたかった。あんたの温もりを傍らに感じて。

……でもそれ以上に。あんたを落胆させたくない。
イヤだといえば、無理強いはしないだろ?
そう言葉に出してしまって、あんたの想いに添えなくなることの方がオレは怖い。
許されて受け入れられて、満ち足りた気分になっていた。愛し、愛されているんだと。ついさっきまで。

でも、そんなあまいもんじゃないんだな。
本当の怖さはここから始まるんだ。
知らなかった。喪うことがこんなに底なしの恐怖を呼び起こすなんて。
他人を愛すること。気持ちを量ることが。

母さんのときはこんな思いはしなかった。
でも、あんたは母さんじゃない。あんたの心がオレには読めない。
怖い…怖いよ。連城。あんたと、あんたを喪う恐怖に怯える自分自身の心とが。
オレは……いったいなんて応えればいい?


「そんなに怯えた目をするな。……妙な気分になってくる」

「……っ!」

心のうちを見透かされたようで、ケイの面に朱がさした。

「もう歩けるか?……平気なようだったら一風呂浴びてくるといい。おまえを欲しいのは本当だが、抱き壊すつもりはない。したくないんだったら、声をかけずに休めばいい」

そう云って、おやすみも言わずに消えてしまう。寝室ではなく書斎の方に。
ケイひとり残して。




「なんだよっ!」

ほっとしていいはずなのに、だんだん腹が立ってきた。
誘うだけ誘ってその気にさせて悩ませて自分だけさっさと退場か?
ナニサマのつもりなんだ?

揺れる感情が制御できない。恋するオトメのような逡巡が一気に怒りにすりかわる。
振り子どころの騒ぎじゃない、この起伏ときたらまるでジェットコースターだ。
腹立たしさの正体をそれ以上深く考えることもせず、ただ感情の趣くままに、ケイは暴れ馬の勢いで書斎のドアに突進していた。


「やっぱりあんたずるい」

「ケイ?」

憤然として睨まれて、一瞬わけが解らなかった。

「優しそうなふりして、気遣うふりして、結局最後はオレに決めさせるんだ。自分だけ傷つかないとこいて……そうやって、今までオンナとも別れてきたんだろ」

指を突きつけられ、やけに据わった瞳で糾弾される。それもかなり見当違いな。

まだ酔っているのか?こいつ?

そう納得してしまえば、この今の状況もなかなか面白いものだと、内心で響生が呟く。
眦をつりあげた、怒れる形相のケイ。
そんな表情も悪くないなどと考えながら、響生はようやく声を発する。

「妬いているのか?」

「んなわけあるかっ!」

「じゃあ、なんなんだ?」

解るように説明してみろ……そんなふうに促している、静謐を湛えた感情の読めない瞳。
こんな眼差しで見つめられてはケイだっていつまでも逆上したままではいられない。

「ケイ……何をそんなに怒っている?」

重ねて問われて居たたまれなくなった。……否応なく気づかされる。自分が腹を立てていた、その本当の理由に。

「もういいよっ!おやすみっっ!」

そっぽを向いてきびすを返した、その腕を掴まれた。

「ちっともよくない。何が不満だ。ケイ?」

言えるわけがない。
内心での躊躇いを押し流すほどの強引さで自分を求めてほしかったなんて。
……その痛みと引き換えならあんたの温もりを一晩中欲しても許されるかもしれないと計算高く考えていた、独りで空回りしてた思考なんて。

「あの場で押し倒してしまわなかったことを怒っているのか?」

図星を指されて心臓が跳ね上がった。

「もういいんだってばっ!」

振りほどこうとあがく。

「俺は欲しいと言った。でもおまえがあんな辛そうな表情をするから……。本当に負担なのかと思ったんだ。それのどこが気に入らない?強姦まがいの味を占めたわけじゃないだろう?」

「そんなわけあるかっ!」

再びアタマに血が上る。
視線は相変わらず逸らしたまま、怒りというよりは羞恥のために。

「じゃあなんなんだ?俺はどうすればいい?」

もう一度、今度は柔らかく訊ねられて、ついその声音に聞き惚れた。まるでマタタビに酔う猫みたいに。甘い麻薬に。
きっと今の響生はほたるに向けるみたいな優しい微笑を浮かべている―――

「……ただ一緒に寝てほしかった」

気がつけば、本音が口をついていた。
ダメだ。もうマトモに顔なんて見られない。俯いて拳を握り締めたまま、それでもこれ以上の誤解は避けたい一心で、言葉を続ける。

「したくないわけじゃない。あんたが欲しい。……でも、もう痛いのはイヤなんだ。勝手なのは解ってるけど……あんたの傍で眠るだけじゃダメか?」

本当の希み。
すがるように見上げる瞳が、仔猫のように庇護欲をかきたてるのをこいつは知っているんだろうか?
無力な生き物が生き延びていくためのしたたかな戦略。―――知っていて魅せられる無垢な媚態。

ふっと響生の表情がやわらいだ。

「そうやっておまえに言われたら断われるわけがないだろう?」

おまえの望むままに―――
見慣れないその微笑をまじまじとケイがみつめる。吃驚したという顔で。
それがなお愛しくて、引き寄せて抱きしめた。


腰が……砕ける。酔いがまた一気に回ってきたみたいだ。
まだ汗を流していないという口実を口にする間もなく、ケイはその気になった響生に寝室へと連れ込まれていた。







「気持ちいいのは好きだろう?」

囁かれて気が遠くなる。
身体の奥に火をともす緩やかな愛撫。

「でも焦らされるのはイヤなんだな?」

勃ちあがったものを掌に包まれる。扱かれて思わず喘いだ。

「……指ならいいか?ひどいことはしないから」

冷やっこくてぬるりとしたものが滑り込む。昨日までは意識することもできなかった自分の身体の内側へ。
くちゅくちゅと音がする。塗り込められていたジェルが溶けだし入り口から溢れ出す感覚にケイが顔を赤らめた。
表情を隠すように顔を覆った両腕は、穏やかだが断固とした仕種で外された。すかさず唇を塞がれる。

「そのまま眼を閉じて。ただ感じていればいい。好きなだけ」

「うん…」

揶揄するでなく煽るのでもない、けれんのない響生の心情。
触れ合わせながら息だけで送られた言葉に素直に頷いて目を閉じた。
肌に感じる唇の感触が徐々に下へとずり下がっていく。
首筋、鎖骨、胸の突起、わき腹に回って腰骨のあたり。大きく割られた脚の付け根、萌える叢の生際ぎりぎりから鼠蹊にかけて。
高まる期待ときわどい部位へ落とされるキスに、次第に呼吸が乱れだす。

「っ……はっ!あ……」

息を継ごうとして思わず洩らした悲鳴のような喘ぎ。
その大きさに自分で驚いて眼を見開いたその瞬間、ぺろりと先端を舐められて身体が強張った。
そのまま口腔に含まれる熱い行為を予感する。
だが、続いて与えられたのはぬめりを利用して棹を扱かれる強烈な刺激だった。

「……くぅ…っ」

堪えようとそこに意識が集中してる間に、今度は後ろを探られる。
すでに響生には知られてしまった奥処のポイント。

「―――――っ!」

濡れた指先で深く突き上げられ小刻みな振動を送られて、ケイはもう何も考えられなくなった。

早すぎる絶頂を羞じるゆとりもなく弓なりに硬直して射精する。
短い間隔で白濁を飛ばし、やがて痙攣が収まって浮いていた背中がどさりとシーツに沈んだ。

反動でひらりと跳ねる寝具が眼の端をかすめる。…まるで砕け散る海の泡のような、白。

……海に抱かれているみたいだ……放出の余韻はそのままケイを幻視へと誘う。

砕ける波頭とその飛沫がまなうらに視えた。
渦に引きずり込まれそのまま一気に高みに押し上げられて、天空へと続く頂を垣間見る。
そして、傾ぎ崩れ落ちる身体と抱きとめられ波間を漂う自分とを。
ゆるゆると流される陶酔。穏やかな充足。ふわふわと浮びながらいつまでも意識はここに留まっていたがったのに、ふと気がつけばそこはもう波打ち際、現実との境界で。重たい身体の感覚が甦ってきて、しぶしぶと正気に返る。

そこでしげしげと自分を見つめていたらしい響生と至近距離で目があった。

「よかったか?」

「うん……」

取り繕う余裕なんてない。だから、素直に口にした。

「すっげー…気持ちよかった…」

「…それはなにより」

覗き込む響生の顔に曰く言い難い表情が浮んで消え、こめかみにキスを落とされる。
その優しさがくすぐったかった。

……なんだ。思ったままを口にしていいんだ。構える必要なんてなかったんだ……。

心までもが浮遊する。勝手に溶けて流れ出していく。

「……連城?」

「なんだ?」

「好きだよ」

「……おまえ、まだ酔っているのか?」

呆れたような響生の口調。
ふわりとケイが微笑んだ。

うん。酔ってる。あんたの存在に。あんたのくれるものに。だから……あんたにもオレを感じてほしい……

頭を引き寄せ響生の髪に指を絡ませて、自分からその唇に触れた。
あからさまな誘いに響生が応じて、口づけはすぐに熱のこもったものとなる。

……身体中が蕩けだすみたいにキモチイイ……。でもあんたは? あんたもオレに感じてくれてる?

ケイの手がそろりと伸びた。響生のそれに。探り当てた手応えに唇の端がつり上がる。
新月の弧を描く、妖しい夢魔の微笑みに。

その淫蕩な表情の変化に響生が息を呑んだのをケイは知らない。
キスから意識が逸れたのを幸い、手の中のものに集中しだした。

先程与えられた刺激を忠実になぞって響生の欲望を育てていく。やわやわと。ゆるゆると。
先端から透明な液が滲み出すまで。
濡れだした掌に反応したのだろう、屹立はどんどん固さと質量を増していく。どくどくと脈打っている。
溢れる雫が指先を伝った。

口に含んだらどんなだろう?やっぱり潮の味がするのだろうか。

確かめたくて顔を近付けようとしたそのとき、それまでされるままでいた響生に突き飛ばされる勢いでベッドに引き戻された。
物もいわずに抱きかかえられ、横抱きにされる。向き合った姿勢で自分のものを握りこまれる。
もう、言葉は要らなかった。視線を見交わし、手淫を施しあって互いを煽りたてていく。
荒く息を吐き、交婚う蛇のように舌と舌とを絡ませながら。
どちらが先に音を上げるか、まるで競うように仕掛けてあっていた手管は、両手が自由になる分だけ響生に歩があった。

不意に前立腺を突かれて、ケイの動きが一瞬とまる。
その隙に、ここぞとばかりにスパートをかけられてはひとたまりもなかった。

「…ぁ…ああああっ!」

再び全身を貫く甘美な痺れ。波打つ腰と同じリズムで迸りを撒き散らす。

「ケイ…ケイっ!…」

飛びかけた意識を、切迫した声が引き止めた。
虚ろな眸をあげれば、霞む視界いっぱいにのしかかるようにして膝立ちになった響生が映る。
狂気を宿した瞳でケイの顔をひたと見据えながら、自らを扱いている響生が。

一瞬とも永劫とも思えた時間のはてに、苦悶と見紛うその貌に恍惚がよぎって、ケイは自分の身体に降りかかる響生の飛沫を感じていた。
下腹でまじりあった精液がなだらかな肌を伝い、とろりと流れ落ちる。
零れるのを惜しむかのように響生はそれを塗り伸ばし、ケイの上に身体を重ねた。

……濡れて密着した皮膚と皮膚とがまるで粘膜にでもなったみたいだ。
響生の荒い呼吸が、心臓の鼓動が、内側から響くみたいに直に感じ取れる。

ひとつにはならなかったけど……今、ひとつに繋がっている。抱きしめられて包んで包まれている。
連城……蕩けるみたいに気持ちいい…。でも少し重いかな……。

まるで声が聞えたみたいに響生が身じろいで体を入れ替えてくれた。
触れ合っている部分はそのままに、ちょうどいい具合に腕枕までしてもらって、ケイは目線だけを物憂げに動かしてにこりと微笑う。
そのまま肩口に頭を擦りつけるようにして眼を瞑る。どこよりも安全な、何よりも望んだ男の腕の中で。

――……。

響生がなにか話し掛けてくる。

だがすでにケイの意識は再び眠りの淵へと彷徨いはじめていた。









今年はもうダメだと思ってました。恒例になりつつあった夏のエロ(笑)
五月で煩悩使い果たして、おまけに遅れてやってきた最終巻ショックでなかなか新しいものに手をつけられないでいたのですが。
おともだちとはありがたいものです<(_ _)>へばっていた私にほいほいほいほい次から次へと煩悩という名の骨を投げてくださって…(笑)
我慢できずにその骨にかぶりつくため走り出してしまいました。猛烈にしっぽ振りながら。
その最たるものが「FALLEN ANGELS」であったことはいうまでもありません。海さん、本当にどうもありがとうございました。
「甘くも激しいコト」の話、堪能させていただきました。一年待ったかいがありました…。
一度は挫折しかけた話でしたが、ミラとは性格の違う赤神パロは、今回、書いててとても楽しかったです。ケイちゃんの「あんた」が特に(大笑)




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