二人の放った体液は互いの指を濡らして混ざり合い、やがて掌からも溢れて下腹にまで伝い落ちる。 その白濁に塗れた指をすっと高耶が差し出した。 躊躇うことなく口に含んで味わった。 あまく、苦く、えもいわれぬ香りがした。脳天が痺れ、飲み下せば火酒のように胃の腑を灼く。 同じくとろりと精の滴る自分の指を今度は高耶に伸ばす。彼は まるで給餌を強請る雛みたいに口を開けて受け入れた。 互いに残滓をこそげ取っては、互いの口へと運ぶことを繰り返す。 指では役に立たなくなると、下腹の隅々にまで舌を伸ばして舐め取った。最後の一滴までも愛しむみたいに。 緘黙を課せられた崇高な儀式のように。 「……おまえは、今、『龍』の精髄を口にした」 独り言のように高耶が呟いた。 「もう『人』ではない。オレの眷属、オレの伴侶だ。 オレと同じ世界で生き、同じ時間を過ごすことになる……。いいか?それで」 直江にとっては改めて問われるまでもないことだ。 それでも高耶は真剣な、けれど縋るような瞳で直江を言葉を待っている。 それほどに、彼の抱えてきた孤独は深く、長い。 だから、直江も真摯な瞳で高耶に誓った。 「……どうか、いつまでも傍に。好きなだけ私を喰らって。私も負けずにあなたを喰らう。 そうしてふたりひとつになって、そしていつか一緒に逝きましょう。もう決してあなたを独りにはしない」 それは、厳かな誓約。 その言霊に力を得て、高耶の表情がみるみる豊かになる。 ふたりの唇が触れ合った。 すぐに口づけは深くなり、再び褥に倒れ伏す。 永劫を共に生きると決めたふたりの、これが最初の刻。 互いの気を高め、互いの精を喰らっては、 いつ果てるともない交歓を繰り返す。 大暑の夜、閨に、屋敷に、谷全体に、青嵐の気が満ちる。 それは、久しく不在だった龍王が全き姿を得て再びこの地に顕現した、その証左でもあった。 |