食事をつくるのが高耶の受け持ちなら、夕食後の飲み物を用意するのはもっぱら直江の役目だった。 後片付けを済ませ、シャワーを浴びてさっぱりした高耶は、直江に着替えを借りてすっかり寛いだ格好をしている。 お湯で温められ、匂うような素肌から眼を引き剥がすようにして、直江はグラスを差し出した。 「サンキュ…」 手渡されたそれを、一口含んだ高耶が意外そうな顔で直江を見る。 「これってブランデー?」 「水割りにしてみました。飲みやすいでしょう」
返事の代わりに掲げられた壜を見て高耶が眼を見張る。 「お前、こんなもの、どっから……」 「兄の事務所からの戦利品です。どうせ到来物ですから」
この言分には当の照弘は絶対同意しないだろうと思いながら、今度はゆっくりと舌で転がしてみる。 「こんな高価い酒、水なんかで割ってガキに飲ませたって知ったら、お兄さん何て言うかな」 ぼそりと呟いた感想にも直江は動じない。 「いい酒はどう飲んだっていいんですよ。ほら。実際香りは少しも損なわれていないでしょう?掌で暖めながら舐めるように楽しむのもいいけれど、若いあなたには少しまどろっこしいかもしれないから…」 「………」
確かにその通りだった。 「高耶さん?」 そんな思いが表情に出たのだろうか、直江が怪訝そうに声をかけてきた。
「いや、お前なら、そういう飲み方もさまになってそうだよなって思ってさ。酒に呑まれないぐらいオトナだもんな。こんなガキのお守りしてて虚しくなんねーか? 「あなた以上に綺麗なひとなんているわけないじゃないですか」 「お前…、それ本気で云っているんだったら殴るぞ?」 眉間にしわを寄せながら拳をかためる高耶に、直江が軽く両手をあげてみせた。 「冗談は抜きにしてね、私はあなたの傍にいられることが嬉しいんです。あなたを失っていた年月が長すぎたから…。こうして過ごせる時間が私にとってどんなにかけがえのないものか…きっとあなたには想像もつかないでしょうね」
こういう台詞を本気で言うからこの男は怖い。 「お代わり!」 突き出されたグラスに直江がため息をついた。 「飲みやすいのも考えものですね…。口当たりの柔らかさに騙されると後でひどい目にあいますよ」
ぷっと高耶がふきだした。 「そういえばよく似てるわ。お前、介抱慣れもしてそうだもんな。据え膳もずいぶん喰ったろ?」 「ひどいですねぇ…。ご希望ならあなたで試してみましょうか?」 「バーカ」
くすくす笑いながら、他愛のないやり取りを楽しむ。 「おやおや、もう酔ったんですか?」
揶揄するような口調にももう応じない。 「高耶さん?」
夢とうつつのはざまのキスは、触れただけで終わってしまった。
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この時期に書いたものは大概そうですが、この設定でもふたりは清い関係です。
今書くんだったら、直江は高耶さんを絶対押し倒してコトに及んでいると思うのですが、(←おいっ!)
子育て真っ最中だった当時は妄想育てる気力と体力が私に残っていなかったのです(笑)