風鳴りとともに、またぱらぱらと葉っぱの雨が降ってくる。 見上げれば綺麗に澄んだ高い青空とちぎれたような白い雲。 ざわざわ揺れる梢に残る色づいた葉が、次から次へと散り落ちる。 木立に零れる陽光を受け、ちらちらとやわらかな黄金色に輝いて。 何度見ても見飽きないその眺めを暫し堪能して目線を下にやれば、こちらもいつ果てるともしれない落ち葉の絨毯。 きりがないけれどけじめと区切りだけはつけておきたくて、高耶は落ち葉掃きに精をだした。 この時期のこの仕事をきらいなわけじゃない。 乾いた枯れ葉は集めておいて、後日盛大な落ち葉焚きの日に燃やされる。 もちろんその焚き火の中には山ほどのサツマイモが隠れていて、檀家さんや掃除に参加した子どもたちへ振舞われるのだ。 当然子どもたちの目当てはそのほくほくの焼き芋で、かくいう自分もその一人、 毎年のこの日がとても楽しみで待ち遠しくて。 そのための準備と思えばきりのない掃き掃除も全然苦にはならなかった。 一生懸命だったあの頃を思い出して、高耶はくすりと笑う。 どっちが早いか競争したり、落ち葉の山を転げまわったり。 はらはら舞い散る落ち葉の美しさなんて目に入らないくらい、遊びまわるのが楽しくて仕方なかった。 だって、傍らにはいつも大好きな人がいてくれたのだから。 暖かな思い出に口元を綻ばせながら、高耶はまた箒を持つ手に力を込める。 落ち葉焚きの日はもうすぐだ。それまでに、お日さまの匂いのするこの落ち葉を少しでも多く取っておきたい。 当日皆に配られる焼き芋が、例年同様今年も美味しくなるように。 そうして夢中で働いて。せっせと集めて袋に詰めて納屋に運んで。 ようやく一息つく頃には冷たい空気にさらされながら仕事をした指先がすっかりかじかんでしまっていて、高耶は、はあと息を吹きかける。 前にもこんなことがあったっけと、甘酸っぱく思い出しながら。 何度も何度も。 「はい」 突然背後から手が伸ばされた。 差し出されたのはハンカチに包まれた熱いココアの缶。 高耶が笑いながら振り返る。たった今まで考えていた人影、 「相変らず、手袋はキライなんですね…」 そう言って困ったように微笑する端整な顔を見るために。 「だって勿体無いじゃん?せっかく春枝母さんが編んでくれたものを汚しちゃうかもしれないし」 大丈夫、学校行く時はちゃんとはめているからと嘯く高耶に、溜め息をひとつ。 「使いどころを間違えてますよ。それであなたが冷たい思いをしたら意味ないじゃありませんか」 嗜める口調の男に高耶がにぃと口端をつりあげた。 「平気。冷え切る前に、ちゃんとこうしてあったかいもん、もらったから」 カイロ代わりのその缶を両手でしっかり握りしめて。 もう直接に手を取り息を掛けて温めてもらえるほど自分は幼くはない。 けれど、いつも心に掛けていてくれるのだという思いは、缶の温み同様、じんわり心に沁みてくるから。 今はこれで充分だ。 独立して家を離れたこの男が寺の些細な行事にあわせて毎年帰ってくるわけも、 自分と同じなのだと知っているから。 だから。 「おかえり。直江」 とっておきの笑顔で高耶が言った。 |