日にちにすれば、たった二日の差でしかなかった。 春の盛りであれば気にもとめないわずかな成長のタイムラグ。 それが、秋の終り、双子のようなふたつの莟の明暗を分けた。 小春日和に助けられて、ひとつは無事に花開いた。 霜枯れの庭の唯一あざやかな彩。気品を湛えた最後の薔薇として楚々と咲き、そして散った。 でももうひとつは。 折悪しく吹いた木枯らしに凍え、そのうてなを閉ざしたまま、 まるでいつまでも孵らない卵のよう。色だけを暗く沈ませ螺旋を固く引き結んで、朝な夕なの密かな住人の願いも虚しく、一向にほころぶ気配をみせなかった。 晩秋は初冬にかわり、 明朝にはいよいよ雪が舞おうかというほど冷え込んだ夜、 ついに、莟はもうひとりの住人の手によって、庭からリビングに移された。 「もうすこし待てば、開くかもしれないでしょう?」 一輪挿しにすっきり伸びるその枝を眺めて、夢見るように男が言う。 「無駄だ。もう咲かない」 苛立ちを隠そうともせず青年が返す。 「この蝋細工みたいな花弁を見てみろ。これじゃ殻を被ったのと同じ。 中から破るだけの力は、この莟には残っちゃいない」 そう言い捨てて、そのままふいっと部屋を出る。 引き止める間もなく立ち去るその背を見送る男の眼に、一瞬、痛ましげな色がよぎった。 怖いのだ。彼は。 期待して、裏切られるのが。その突き刺さる氷の痛みを、彼の心はまだ忘れてはいない。 だから常に最悪を想定して己を縛める。もうそれ以上、傷つかなくてすむように。 ……彼は気づいているのかどうか。 この薔薇は彼自身。 本来の資質を捻じ曲げかねない寒風にその身を曝さざるを得なかった、少年時の。 だからこそ、咲いてほしい。いや、きっと咲くはずだ。 祈るような眼差しを、男は再び、莟に向ける。 言葉とうらはら、彼も、それを望んでいるから。その想いをどうか聞き届けて――― 二週間後、願いは現実となった。 「……咲いたな」 「……咲きましたね」 ふたりを感嘆させたのは、やわらかに咲き初めた淡い色味の一輪の花。 あの、莟の頃の凝った血の色が嘘のような、本来の色を広げた優雅な花びら。 少々小ぶりではあるけれど、でもそれは、紛うことなく薔薇の花だった。 「サンキュ、直江」 ため息のように高耶が呟く。伏目がちに微かに眦を染めて。 「おまえのおかげだ…」 その言葉に託された彼の想いに、直江が微笑む。 「私は何もしていませんよ。ただ冷たい風を遮っただけ。咲いたのは薔薇本来の力です」 「それでもだ」 おまえが暖めてくれなければ、消え果てた希だった。 重ねて高耶は呟いて、その温もりを確かめるように、そっと、傍らの男に身体をすり寄せた。 |