仰木高耶は有言実行のひとである。 その事実を今さらながらに直江が思い知ったのは、慌しくも有意義だった休暇が終わった数日後の夕飯時のことだった。 食卓の上には夏野菜の料理の数々、そして、あの、見慣れたナスのキャビアの鉢がある。 あの日、ついでだから持っていけと無理やりに押し付けられた山のような野菜を、高耶はうまく活用したらしい。 「本当につくったんですね、高耶さん……」 思わず洩らした独り言に、ちょうどキッチンから茹でたてのパスタを運んできた高耶が応えた。 「うん。でも、つまみにするだけじゃもったいないから、スパゲティにからめたらどうだろうと思ってつくってみた。……ちょっと試してみてくれよ」 そう言いながら、高耶は直江の目の前でパスタをサーヴし、仕上げにパセリとチーズを振り掛ける。 勧められるまま口にして、目を瞠った。 「! 美味しいです」 「本当だ。悪くない。塩加減がちょうどいい感じだな」 自らも食べてみて、高耶が納得したように相槌を打ち、あとは二人申し合わせたように黙々とスパゲティをフォークにからげだした。 熱いパスタと冷たいナスの取り合わせはなかなか新鮮な食感で、半分ほどを一気に平らげ、 次いで冷やしたモロヘイヤのスープに手を伸ばした。 喉越しのいいそのスープで一息ついてからメインディッシュの夏野菜のソテーに取り掛かる。 オリーブオイルでこんがりと炒めあわせた鶏もも肉とトマト、パプリカやズッキーニの夏野菜を塩味でまとめ、 添えられたニンニクとバジルの風味が香ばしさを引き立てている、彩りも華やかな一皿だった。 いつもながら、バランスの取れた過不足のない献立に、直江は感嘆するばかりである。 「……どれもみんな美味しいです。すごく」 「そりゃよかった」 褒めちぎったときの仏頂面はいつものこと。照れ隠しだと解かっているから、直江は無愛想な高耶にめげず、最前からの疑問を口に出した。 「それにしても、よく作る時間がありましたね。……このキャビアを作るのはすごく面倒だと、昔、姉がこぼしていたんですが」 ナスを焼いて、皮を剥いて刻んで炒めて冷やすだけ。 ひとつひとつの作業は単純でも、完成までにはけっこうな時間が掛かって、つい作るのが億劫になってしまうのだと、よく冴子は言っていた。 だからあなたたち、むやみにばかばか食べるんじゃないわよと弟たちを牽制しながらも、その本人が、もっぱら食べる人に成り下っているのだから世話はない。 たまに家族の揃う橘家の夏の食卓では、このナス料理が出てくる度に、毎年、こんなやりとりがかわされていて。 そんな刷り込みも手伝って、直江は、高耶がこんなにはやく挑戦してくれるとは思いもしなかったのだ。 本当に面倒だとは思わなかったのだろうか? おそるおそる訊いてみる。 「そんなでもなかったぜ?」 逆に不思議そうな顔で高耶は答えた。 「火にかけたら、しばらくそのままでいいんだし。冷ましてる間も他のことできるし。台所の片手間仕事にちょうどいい感じ? それに、作り置きがきくって便利だよな。昨日洗い物しながら仕上げておいたから、今日のメシの支度は、野菜炒めて、バスタ茹でてそれでおしまいだし。 オレ的にはすごくラクさせてもらった気がするんだけど」 こともなげに言い切る高耶に、思わずひれ伏したくなった。 そんな高耶と暮らせる自分は、三国一の果報者だとつくづくと思う直江であった。 |