【パターンA】 「んまっ…!」 口に入れたスプーンをゆっくり動かして高耶が目を丸くする。 「あ、コレ、ウマいぜ!!」 「そうですか」 買ってきたビールを冷蔵庫に収めて直江が振り向く。 「『ビターキャラメル』なんて、アイスクリーム、全然イメージがつかめなかったけど…、 すげーな、なんていうか、塩っぱさが、こう…嫌味になる寸前で止めてある、っていうか…」 あれ?と高耶は、茶の間に戻ってきた直江を見上げた。 「おまえのは?」 「え?」 直江は腰をおろしながら、首をかしげた。 「ああ、私はそんなに甘いものが欲しい気分ではなかったので、一個だけ買ってきたんです」 「え、何だよ、ウマいぜ、これ」 スプーンをふり回す高耶に、正面の直江は相好をくずす。 「CMを喰い入るように見てたでしょ?あれじゃ、嫌でも覚えますよ」 「や、だって…。ま、とにかく、ほれ」 え…と突き出されたスプーンの上のアイスクリームに目の焦点を合せ、直江がちょっと顎をひく。 「あ、いいです…」 よ、の形の唇に、冷たい甘味が押しつけられ、彼は、苦笑しながら、高耶のおすそわけにあずかった。 「ん…」 「な、意外だろ?」 ゆっくり舌先に広がる冷たさの中の味わいを分析する直江の表情に高耶は満足げだ。 「本当だ。…絶妙なバランスですね」 へへーえ、と笑いながら、もうひとすくい直江に向けられたスプーンのすぐ近くで――― 「いいかげんにしろ、おまえら!」 千秋がばさりと夕刊を開いた。 【パターンB】 「んまっ…!」 口に入れたスプーンをゆっくり動かして高耶が目を丸くする。 「あ、コレ、ウマいぜ!!」 「そうですか」 コーヒー缶をぱき、とあけて、問題集を開いた直江がうなずく。 「『ビターキャラメル』なんて、アイスクリーム、全然イメージがつかめなかったけど…、 すげーな、なんていうか、しょっぱさが、こう…嫌味になる寸前で止めてある、っていうか…」 あれ?と高耶は座卓に問題集―数学―を置いた直江をのぞきこむ。 「おまえのは?」 「え?」 缶コーヒーに口をつけた直江が、軽く首を振った。 「ああ、そんなに甘いものが欲しい気分じゃないんで、冷凍庫に入れときましたけど」 「え、何だよ、ウマいぜ、これ」 スプーンを振り回す高耶に、正面の直江は溜息をついた。そして、何かに気づいたらしく、半眼になる。 「…また、テレビ見ながら運転してきたんでしょう」 高耶は、スプーンをくわえて、首を振ったが、直江は彼の手にしたアイスのカップを指さした。 「CMを見ていて、釣りあげられた、んでしょう。運転中はナビにしておいた方がいいっていってるのに」 「や、だって…。ま、とにかくほれ」 え…と突き出されたスプーンの上のアイスクリームに目の焦点を合せ、直江がちょっと顎をひく。 「あ、いいです…」 ってば、と言おうとした唇に、冷たい甘味が押しつけられ、彼はむっとした表情でスプーンを受け入れた。 「ん…」 「な、意外だろ?」 ゆっくり舌先に広がる冷たさの中の味わいを分析する直江の表情に、高耶はにやりと笑う。 「本当だ。…絶妙なバランスですね」 ふふん、と甘い笑みで、高耶が、再び彼に向けたスプーンのすぐ近くで――― 「いいかげんにしろ、おまえら!」 千秋がばさりと夕刊を開いた。 「ここは俺んちだっ!」 |