もしもあなたが忘れずにいてくれるのなら いつかまた会いにきて。 待っているから。 ずっとずっと待ってるから。 穏やかな眼で、静かな声で、彼は言った。 離れるのは嫌だと、真っ赤になって泣き喚く小さな自分に。 よく大人が口にするようなおざなりの慰めでもその場しのぎの気休めでもない厳かな口調だった。 きっとこれは男と男の約束なのだ。 そう信じられたから。 だから高耶は溢れる涙を拳で乱暴に拭い、彼を見つめた。 解った、と。 そう、一言絞り出すのがやっと。それ以上何か言えばまた嗚咽が混じりそうだったから、口をへの字に結んだまま、一心に彼を見据えた。 身じろぎもせず仁王立ちに踏ん張って強い視線を投げてくる子どもを、しばらく小首を傾げて眺め続けて、やがて直江はふわりと微笑う。 「これを……」 そう言って高耶の手に握らせたのは、布製の御守袋。 つられるように視線を落としもの問いたげにまた直江を見上げるときには、思いつめた険しい表情はすっかり子どものそれに戻っていて。 そんな高耶に直江は言った。 「……中に秘密の地図がはいってます。すぐに開けちゃダメですよ。特別なインクで書いてあるんです。今見ても白紙のまんま。 でも、そうですね。あと十年もしてまだあなたが覚えていたら、そのときは地図をたよりに私を見つけて。待っているから。ずっとずっと待っているから……」 わざと秘密めかして潜めた声と人を食ったような話の中身。もしも他の大人が言ったのだったらからかわれたと思ったかもしれない。 勝気な高耶のこと、馬鹿にするなと怒り出しただろう。 でも直江が言うなら、それはきっと言葉通りの意味なのだ。 解った。必ず見つける。 袋をきつく握り締め重々しく頷く高耶のことを、微笑みながら直江は見つめ、そして大きな掌でくしゃりと頭を撫でてくれた――― 別れ際、憶えてるのはここまでだ。 それが八つの年の夏の終わり。 そして十年が過ぎ、高耶は直江に逢うために、今、電車を乗り継いでいる。 |