「で、今後のおまえの身の振り方についてだがな。大雑把に分けて二つある。まず、ひとつめ」 高耶が事態を理解するまで充分な間をとってから、おもむろに千秋は人差し指を立てた。 「モリを結界にして一生を此処で暮らす。これが一番手っ取り早くて有効だ。 まあ、所謂籠の鳥だが、元々覚悟を決めて此処にきたっていうんなら、そういうのも想定内だろ? 暇つぶしの遊び相手は山ほどいるし、どんな我儘気ままもやりたい放題。 大事な大事なお姫さまのお願いなら、直江の奴がなんでも叶えるだろうしな」 (ただしその魂の輝きは曇っちまうだろうがな……) 最後の言葉は飲み込んで、千秋はもう一本指を立てた。 「ふたつめ。 場当たり的だが、多少の危険は承知の上で今まで通りの生活を送る。 もちろん腕の立つ護衛は必須だし、そいつに四六時中張り付かれるわけだから、これはこれで息の詰まる窮屈な暮らしになるかもしらんが。 化けもんに喰われるよりはマシってことで」 ここで千秋はいったん口を噤み、さあどちらを選ぶ?とばかりに高耶の表情を窺った。 正直、どちらもありがたくない。 口元をきゅっと引き結んだ彼からは、そんな想いが汲み取れる。 けれど、高耶はそれを口にしない。 彼にとっては信じ難いことの連続だったろうに、事実を事実として受け止めて揺るぎもしない。 俯きがちに考え込んでいる今も、きっと自分なりに最善の方法を探っているのだろう。 その潔さに頭が下がる。 「ところで、その護衛だけどな。なにしろおまえは直江の嫁さんだ。どんなに腕利きを選んだとしても奴を得心させるのは難しい」 それまでくるくる変わる反応見たさについ小出しにしていた手札をこの際一気に曝そうと、 あえて重々しく付け加えた一言に、 えっ?と高耶が顔を上げる。 その彼に、千秋はにんまりと笑ってみせた。 「つまりだな。直江自身がおまえのボディガード兼恋人として引っ付いて、おまえは今まで通り、ヒトとしての暮らしに戻る。 直江はな、今、そのために飛び回っているはずだ。具体的なプランは俺も知らんが。詳しいことは奴が帰ってからじっくり説明してもらえ」 本当に何度見ても見飽きない。 少しばかり不安そうにしていた貌にはっと理解の色が浮かんで、そこにじわじわと喜びが湛えられていくのを見るのは。 結局のところ、このヒトの子は本当に直江のことが好きなのだ。直江がこのヒトの子を想うのと同じくらいに。 そんな二人が共に暮らす。 ならばどんな未来が待ちうけようと、外野がとやかく言うことではない。 (でもまあ、ちょっとぐらいは遊ばせてもらいたいもんだがな……) 千秋の独白に、賛成だとばかりにモリのざわめきが重なった。 直江が戻ったのは、それから程なく。 彼を出迎えたのは、馥郁と大輪の花が綻ぶような高耶の微笑みだった。 |