イラズノモリ - 幕間 -
-8-





それまで静まりかえっていたモリが、またサワサワとさざめきだした。
千秋のまとっていた剣呑な気配が消えたことを敏感に察したらしい。
その変わり身の早さに、当の千秋も苦笑する。
「……どうだ?なんて言ってるか解るか?」
そう水を向けてくるから、高耶も黙って耳を傾ける。
しばらくそうしていて、やがて困ったように顔をあげた。
「なんか、千秋ってあまりよく思われていないみたいなんだけど……」
「へえ?」
千秋は面白そうに片眉を吊り上げ、言葉を濁す高耶に続きを促す。
「それから?」
「あと、オレが少し元気になって安心してるみたい。それと、果物がどうだったか気にしてる。 あれ?そういえば、美味しかったありがとうってお礼の気持ち、どうやって伝えればいいのかな?」
本気で悩むふうなのに、千秋がたまらず破顔した。
「そりゃ、もう一回食ってみるこった。さっきは、余計なことまで考えながら食ってただろ。 だから連中に旨い美味しいって素直な感情が届かなかったんだよ。 おまえ、解り易い性格してるからな。 普通に食って普通に旨いって思えばそれで充分伝わるはずだ。ちょっと待ってろ」
褒めているのか貶しているのかよく解らない言葉を残して、千秋は身軽に立ち上がる。 そうして再び運ばれてきたプリンと果物の盛り合わせはやっぱりとても美味しくて、高耶は今度こそ相好を崩してぺろりと平らげた。
「ご馳走さまでした」
誰にというわけでなく頭を垂れ手を合わせた、その瞬間だった。
モリのざわめきに、ぱっと高耶の顔が輝く。
「な?」
と、したり顔の千秋に、嬉しそうに頷いた。


千秋によると、このイラズノモリは誰の眷属でもない、一種独立した存在なのだという。
「元々が木霊や精霊の集合体だ。きかん気の子どもみたいに気まぐれで扱いにくい……とは使役する側の理屈でな。 自分たちにとって心地良いかそうでないか、好きか嫌いかの判断で動くから、ある意味解り易いっちゃ、解り易い連中だ」
おまえと一緒だなと合いの手を入れられて、またも微妙な表情になる高耶に、ひどく真面目な顔で千秋は告げた。
「あいつらは、おまえをとても好いている。……だから、此処に留まる限り、おまえの身は安全だ」

場違いなことを聞いたと思った。
安全?安全ってどういう意味?千秋の言い草では、まるで此処を出たら自分が危険に曝されるようではないか。 アクション映画じゃあるまいし、そんなこと起こるわけないのに。

半信半疑の高耶に、千秋が深いため息をつく。
「だからよ、さっき言っただろ?含んでおいてくれって。 人間なのに直江の気が混じっているおまえはな、力の欲しい異形からみれば、涎の垂れそうなご馳走なんだよ。 護りもなしにふらふら出歩いたりしたら、それこそあっという間に奴らに襲われて血肉ごと喰らわれるぞ。一片残らずな。 そしておまえらの想像以上にこの世界には異形が溢れている」

言葉もなかった。




戻る/次へ







特に事件は起こらないのに、どうして終わらないんだろう??
というわけで、説明はまだ続きます。。。(とほほ)





BACK