それからは、折に触れて、様々なことを高耶と語り合った。 不審に思いながら訊けずにいた疑問の数々、例えば時々高耶が食卓に追加したのは滋養強壮の一品だったのだとか、 直江が勝手に見立てて贈った高価な小物の類が、実はまったく無用の長物だったのだとか。 深読みし遠回りしてすれ違うばかりだった思いに、時に脱力し、時に赤面して、最後には二人で笑いあった。 直江が長いこと鬱屈を募らせていた後朝の振る舞いに高耶なりの理由があったことも、ようやく知った。 気を奪って負担を掛けたくなかったのだと彼は言った。 意志で制御できるうちはまだしも、 添い伏したまま意識を手放してしまったら、きっと自分は触れあっている素肌ごし、流れ込む気を貪ってしまうから――― だから直江が眠り込むのを待って、そっと部屋を抜け出したのだと。 どうやら 高耶にとっての閨の交わりは効率よく気を受け渡しするための手段にすぎず、 だからこそ、奪ったかもしれない気を直江に戻すために度々忍んできてくれたらしかった。 訥々と語る高耶の言葉を聞いて、思わず直江は天を仰いで嘆息した。 「直江?」 不安げに呼び返す高耶に向き直り、今度は宥めるように微笑ってみせる。 彼の責ではない。 大人びた佇まいにすっかり幻惑されていたけれど、彼の本質は花の精霊。老人と子どもだけの箱庭のような世界で慈しまれ育ったのだ。 色恋の駆け引きなど知りようもないはず。己の経験則で彼の行為を量ったあげくに一人屈託を抱えた自分が莫迦だっただけの話だ。でも。 お行儀のいい子どもみたいに膝を揃え小首を傾げて見上げてくる彼の肩をそっと抱いて顔を埋めた。 「あなたの気遣いはとても嬉しいけれど。お願いだからこれからは目覚めるまで一緒にいて。 ……あなたの姿が見えないと寂しくてたまらないんです」 一瞬、抗うように肩が震える。 「気が必要なら幾らでも取り込んで。私だって一晩中あなたの気を浴びているんです。それでおあいこです」 暫くは息を詰めている気配。けれどやがてそれも落ち着いて強張りが溶ける。続くのは、仕方ないなといわんばかりの、長いため息。 心の動きを呼吸だけで読み取って、直江はこっそりほくそ笑む。 これでやっと彼の寝顔をじっくり眺めることが出来る。まずはこれが始めの一歩。 交わる理由が気の受け渡しだけというのはあまりに味気ないから。彼との隔たりは、これから少しずつ埋めていけばいい。 いつか、彼から一番欲しい答えを貰えるまで。 「なあ、直江―――」 |