夏休み

-送り火の後で〜承前-





強がってはみせたけれど、色恋の経験値なんてないに等しい。 それでも大見得を切れたのは、切り札を持っていたから。直江に好かれていると確信があったからだ。
もっとも自分から告白めいたことをするには、ずいぶんと勇気がいった。
もらった野菜にかこつけて部屋にあがりこんで、あたりさわりのない話をして機を窺ううちに 直江がとぼけた感想を言って―――それに乗った。
好きだと正面から告げて、掠めるみたいに唇を合わせた。
呆けていた直江が、硝子細工に触れるみたいにそろそろと手を伸ばす。
くすぐったいし、照れくさい。でも、ここで視線を逸らしたらまた後ろ向きに考えてしまうだろうから、 ここを先途と踏ん張った。
形のいい唇が戦慄く。
そして、直江は、ようやく一番聞きたかった言葉をくれた。
ああ、よかったと思った。
もう突っ張らなくていい。あとはこいつに任せていいんだと思ったらまともに顔を上げられなくなった。

……高耶さん……。
直江が何度も何度も呼んでくる。
これ以上はないほどの優しいあまったるい声で。
キス、された。
さっきの自分のそれとは比べるべくもない、本気で大人のキスだった。
息苦しくて、恥ずかしくて、でもそれ以上に気持ちよくて。
気持ちも身体もふわふわと高揚して、あとはもう、何がなんだか解らなくなった。
直江に翻弄されるまま無我夢中で快感を追いかけて、彼の手に熱を散らして―――そこで記憶は途切れている。


目が覚めたのは、朝まだき。
直江の家の寝室で、直江のベッドの上で、高耶の傍らにはその当人が眠っていた。
傍らどころか、 高耶の身体は抱き枕よろしく直江の腕に囲われていて身じろぎもままならない。
目だけをパチパチ瞬かせ、頭を巡らせるうちに事の次第を思い出して、ギャッと叫びたくなった。 昨夜はとても自然な流れに思えたことが、なぜ一晩経つとこんなにも居たたまれないのか。
心臓が暴走する。すごく、うるさい。こんなにバクバクしていたら、直江が起きてしまうのじゃないだろうか。
そろそろと目線を上げて直江の様子を窺って、その寝顔に見惚れてしまった。
薄闇の中、すごく綺麗で、しあわせそうに微笑む貌。
夢みたいだ―――昨夜、直江が莫迦みたいに繰り返していたけれど、それはこっちの台詞だと高耶は思う。
何不自由なさそうな、こんないい男の恋焦がれている相手がこの自分だなんて。 あんまりハナシが出来すぎていて信じられない。
けれど、ホントなんだよな……。
緩く抱き込まれて触れる人肌がじんわりと温かい。
想いが通じ合って、触れ合って、たぶん、直江はすごく安堵したのだ。だからこんなにやわらかな表情で眠っている。
まあ、その、昨日はこいつを置いてけぼりにしちまったけど……。
同じ生理を持つ男性としてそこはちょっと申し訳なく思うけれど、過ぎたものは仕方がない。
これから、オレも頑張るから。
とくとくと規則正しい直江の鼓動を聞きながら高耶は思う。
まずは、朝ごはん。普段はあまり食べないといっていたから、とびきり美味しい味噌汁を作ってやろう。 持ち込んだ野菜を思い浮かべながらあれこれ算段するうちに、小さな欠伸がでた。
直江はまだぐっすり眠っているし、自分がばたばた動いて起こすのも気の毒だ。 こうして抱き枕になったまま、二度寝するのも悪くないかな……。

そうして高耶はまたとろとろと束の間の眠りに落ちていった。



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高耶さん、頑張るベクトルがちょっと違うよ。。。(←一人突っ込み)
でもまあ、高耶さん視点だと、まあこんな感じで(^^;)
そして高耶さん滞在中は直江さんは残業しないと思います
というわけで、ガンバレっ!直江っっ!!




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