「夏宵悠遠」の流れを汲む番外三話めです。
それぞれ違うイラストで萌えて書きなぐった1と2を、なんとかひとつにまとめられたらいいな。と。
ずっと温めていたシーンも捨てきれずに、いささか詰め込みすぎですが。
あくまで、パロパロということでどうかお許しを。
小菅さま、ステキな「ニンジン」をどうもありがとうございました<(_ _)>
夏宵悠遠 番外 百合野幻想 3
熱帯夜の爛れる大気が、さらにそのねつさを増したような夜。 様々に交わり睦み合って、今、高耶は、四肢を投げ出して寝台に伏している。 互いに互いが欲しい気持ちはどちらも同じ。その重みに違いはない。 だが、快楽を貪るための行為は、確実に高耶の側に疲労の影を色濃く残していく。 「……こうしていると、あなたが百合の花のようだ……」 腰を抱き取り注ぎ込んだものを掻きだしながら、眼を細めて直江が言った。 残滓が伝い落ちて身体に残す光の筋は、まるで花弁にはしる葉脈のよう、 今も零れて溢れるそれを内股に塗りのばせば、掌にしっとりと吸いつく肌の感触は、ここ数日、手に馴染んだ瑞々しい莟そのもの。 「……こんなガラの悪い花があってたまるか……」 片頬をシーツに押し付け瞼をとざしたまま、高耶が返した。 気丈な台詞に、直江が意外そうに目を上げる。独り言めいた呟きにまさか応えがあるとは思わなかったのだ。 してみると、彼は、まだ正気を保ってはいるらしい。 ついさっきまであれほどに蕩けていたのにと、直江が喉の奥で笑った。 その不穏な響きを感じたのだろう、気だるそうに視線を合わせてくる高耶に、笑いを含んだ声で訊ねる。 「いや、まったくあなたときたら……本当に気づいていないの?」 「?!」 なにが?と、問い返す間もなかった。 奥まった指先の動きに別な意図を感じて、高耶の身体がひくりと跳ねる。 「なおえ……」 思わず呼びかけた自分の声はひどく頼りなく耳に届いた。 もうコトは終わったのだと思っていた。始末をしてくれているだけだと。 なのに、埋め込まれた指は高耶を高めるように内側で蠢いている。 快感点を弄られればいやおうなく感じてしまう。また頭を擡げ始めたそれを愛しげに掌でくるみこまれた。 「まだ……?」 「今夜はそういう約束でしょう?この坊やだってイけそうだ」 言うなり、直江は掴んでいた高耶の腰を高く掲げさせると、難なく己の挿入を果たす。 「…うっ…あ……ぁあ……」 余燼に疼く肉襞は柔らかく男を迎え入れ、煙っていた官能がたちまちに呼び覚まされた。 力の入らない身体を支えられ揺すられて、高耶が再び自身の快楽を追い始める。 高く低く、うたうように。悩ましげな声で啼きながら。 「……ね、高耶さんだって知っているでしょう?花が植物の生殖器だってこと」 夕映えの色を刷く背中に、直江が語る。次第に荒ぐ呼吸を隠そうともせずに。 「ひとつの造作のなかに、雄と雌の部分があって互いに補い合っている。 ……今のあなたそっくりだ。俺のを受け入れて、自分のからも滴らせているあなたに」 ほら。と。 前を扱かれ、ひときわ深く内部を抉られてあがる悲鳴。 電撃に撃たれたように手足を突っ張り弓なりにしなった身体は、次の瞬間、腕からがくりと崩折れた。 そのまま突っ伏し、むずかるように髪を振りたて額をシーツに擦りつけながら、高耶は懸命に堪えている。 そんな高耶を、男は陶然と見下ろしている。 いったい何を堪えるというのだろう? ようやくやり過ごした射精の衝動か、言葉で嬲られることの羞恥か。 四つん這いに顔を伏せ、首を振りつづける彼の姿は、慈悲を乞うているようでもあり、更なる嗜虐を唆しているようでもあって、 苛みたいのか愛しみたいのか、自分でも判別出来ぬもの狂しさが湧きあがる。 遠い昔、百合野の景虎に感じた昏い情念のように。 あれから、初生の道が交わることはついになかった。 景虎にしてみれば、自分はあくまで義弟の陪臣の一人。 合議の席で、或いは酒宴の最中、下座に侍る自分の上を、 彼の無関心なまなざしが素通りするたび、心が軋んだ。 それが何に由来するものか、とうとう気づけぬままに。 やがて彼は討たれ、自分も凶刃に斃れて――― すべては終わるはずだったのだ。 等しく与えられた人の生において、愛することすら自覚できなかった愚かな男の時間は。 それを思えば。 その後に続いた夜叉の責務も、彼との葛藤も、甘露のごとくあまやかな日々だった。 「……まえ、だから……」 きれぎれのうわごとに、我に返り、耳を澄ます。 苦しげな息の下、高耶が訴える。 おまえだから、許すのだと。 指摘されるまでもない。放つ快感と貫かれる悦び。 抱かれるたび、二つながらに感じて乱れる自分は男でもなく女でもない存在に堕ちていくけど。 それを許すのはおまえにだけだから。 両性具有の花だというなら、おまえの前でだけその本性を開いてみせようと。 「なおえ…」 甘えるように高耶が呼んだ。 眦を赤く染め艶めいて潤む瞳で。 縋るように爪を立てて身体をひねる。 向き合う体位に入れ替えて、見合わせた顔を隠すことなく。 どちらともなく唇を寄せ合った。 きつい角度で猛ったものに穿たれて、高耶の白濁が下腹に迸る。 弛緩したその肢を今度は高々と抱え上げ、直江は更なる律動を開始した。 ねつい大気、噎せ返るような芳香に、青草の臭いが混じる。 あの時と同じ百合の香りの中、愛しい身体は己が眼下に晒されている。 つりはしに支えられ、一点だけで繋がって為すすべなく揺すられながら。 気を飛ばし、放心したような虚ろな表情は、あのときと同じもの。 それでも。 「高耶さん……」 「ん…」 耳元に囁きかければ、とろりとした瞳に一瞬光が戻って自分を認め、幼子のように微笑み返す。 あの日、わけもなく欲し、希ったもの。 百合野での望みは、刻を経て、今ようやく成就したのだ。 |