「夏宵悠遠」の流れを汲む番外…というか、本編直後のやおいシーンのはずなのですが。
小菅さま描くところの「噛み付き高耶さん」や「百合にキスする直江」がベースになっていますので微妙に雰囲気違うかもです。
というか、一話めとも性格づけ、違うよね。という気もするのですが。
あくまで、パロパロということでどうかお許しを。
小菅さま、ステキな「ニンジン」をどうもありがとうございました<(_ _)>
夏宵悠遠 番外 百合野幻想 2
一度箍がはずれてしまえば、もう留めようなどなかった。 優しさを装う仮面は瞬く間に剥がれ落ちる。 これほどに飢えていたのだと。そう、知らしめる勢いで彼の口腔を蹂躙した。 だが飢えていたのは高耶も同様だった。 柔らかく包み込まれ壊れ物のように大切に扱われていた、ここしばらくの慈愛 を厭うわけではないけれど。 優しいだけの男でないことはすでに承知だから。 暖かな羽の下、穏やかに囲われながら、ずっと言葉にできない不安が澱んでいた。 そして、花に口づける直江を見たとたんに。 その思いは不意に形を為したのだ。 むしりとるその猛々しさも、狩った首級に印すような押印も、 見せつけるように不敵に流される視線も。 荒ぶる感情は本来自分に向けられるべきもの。断じてその花ではないと。 この男のすべては、自分が占有しているのだから。 差し入れられて蠢く舌を嬉々として絡めとる。 仕掛けるのはむしろこちらなのだと、互いに我を張り、競り合って。 まじりあい飲み込みきれない唾液が伝う。 絶え間ない濡れた音と、時折、鼻に抜けて甘ったるく響く呼吸。 くぐもった喉声にすら煽られて。 目を閉じることなく執拗に唇を貪りながら、釦へと手を伸ばした。 が、男は逆にその手首をまとめあげ、シーツに縫いとめようとする。 「っ!」 体格からくる膂力の差に為すすべなく転がされて、負けん気に火がついた。 上体を押しつけられるその瞬間、高耶は、しなやかに身体をひねって顔を近づけ両手を戒めている直江の左手に思い切り歯を立てたのだ。 思わぬ反撃をくらって動きがとまる。 そんな男の反応を窺うように視線をあてたまま、今度は、ゆっくりと自らの噛み痕をなぞりだす。 ちろちろと舌先を閃かせて、まるで猫属の求愛儀式のように。 「……こまった人だ」 洩れた苦笑は、あくまで主導権を手放さないその倣岸さに対してなのか、自分に向けられた好戦的な媚態になのか。 直江は根負けしたように高耶の手首を解放すると、改めて両手で引き寄せ、そのひとつひとつに宥めるようなキスを落した。 「こういう時は、普通、目を瞑るものでしょう?」 さりげない休戦の合図。すぐにそれは詰る言葉と咎める目つきで返される。 「おまえだって目は瞑っていなかった。これ見よがしに当てつけたくせに」 それが、百合の花との戯れを指しているのだと気づくのに、暫しの間。 拗ねたような物言いに、思わず破顔する。 「おや、妬いていてくれたの?」 「……妬かせようとしたんだろ?」 いいぜ。乗ってやるよと。 にやりと口角をつりあげたその妖艶さに、釘付けになる。 誘うように倒れこむ高耶に、 覆い被さるように身体を重ねて、直江は、晒された白い喉元へと舌を這わせていた。 きつく吸いたてて、刻印を散らした。 花びらのような薄紅が肌に浮くたび、華に劣らぬ艶やかさで次々と声が零れる。 せがむように、促すように。柔らかな茶色の髪をかきまぜて。 喉から始まって胸、下腹へと次第に下っていく唇での愛撫の行方を、すでに高耶は確信している。 自ら足を開き腰を浮かせて強請ってくる、その先端を舐め上げると、 とたんに昂ぶる身体には震えが走って、彼がどれほどそれを待ち望んでいたかを知らせてきた。 たちまちに固く張りつめ反り返る屹立は、先ほど思わせぶりに口づけた花芯の柱頭そのままに 、透明な蜜を滴らせている。 同じように舐めとりながら、目線だけをあげて彼の表情を窺った。 「花よりも、あなたの方があまい……」 「……当然だ」 不遜に言い切るその貌に羞恥はない。躊躇いも。慙愧も。 誕生日の夜とは違う。償いではなく、自分が欲しいからおまえを求めるのだと。 そう、欲望を露わにした愛しい暴君。 ねっとりと見合わせる、合わせ鏡のようなその視線に笑みが零れる。 ぴたりと重なる身体と想い。 ならば、今は、喜んで僕に降ろう。やがて、すべてを奪い尽くすあなたのもとに。 熱を込めた口淫に、ほどなく高耶は最初の精を散らす。 濃密な夜の始まりだった。 |