先日、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続きというか前振りというか背景というか・・・。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―笑顔の功罪 6―
思うに、彼は平等ということにひどく敏感にならざるを得なかったのだと、直江は、高耶の育ちを忖度してなんとも言えない気持ちになる。
両親のいない子どもが集まる場所で、世話をする人間が幾ら優しくとも、それは、無条件に独占できる肉親の情とは違うから。
こどもらしい一途さ、生真面目さだと笑い飛ばすのは簡単だけれど。
高耶の嗚咽が収りかけた頃、直江はティッシュの箱を差し出しながら軽い調子で言い添えた。 「…おねがい?直江の?」 涙を拭い鼻をかんで、ようやく落ち着いたらしい高耶が、不安そうな瞳で見上げてくるのに微笑み返す。そして先ほどの高耶の台詞をなぞるように言葉を紡いだ。 「シスターがおっしゃっていたんでしょう?『人の気持ちを先に考えてあげなさい』って。 それなら、そこに私のこともまぜて欲しいんです」 「?…直江のことも?………あっ」 怪訝そうに言葉を反芻していた顔が見る見る赤く染まっていく。 「……ご、ごめんなさいっ!」 悲鳴のように声が裏返るのは、友達には気を回しても直江本人には斟酌していなかった自分の仕打ちにようやく思い至ったからだろう。
なんで?どうして? そんな心の声が聞えるような表情を浮かべて反射的に尻ごむ高耶を、なだめるように背を撫でた。 「怒っているわけじゃないんですよ」
そう、怒っているのではない。嬉しかったのだ。
直江の言葉を高耶は真剣に聞いている。やがて確認するように訊き返してきた。 「僕は…特別?」 「はい」 「本当のお兄さんじゃなくても?直江の特別に僕がなっていいの?」 「そうしてくれたら嬉しいです」 「本当に?」 「大好きですよ。高耶さんのことが」 ふわっと高耶が微笑んだ。初めて言葉を交わしたときと同じ、花のような笑顔だった。 「じゃ、僕とおんなじだ」 そう言って直江の顔をまじまじと覗きこむ。 「僕たち、リョウオモイだねっ!」 心底嬉しそうに告げるから直江が仰け反りそうになった。 「エミちゃんが、言ってた。一番好き同士ならリョウオモイでコイビトなんだって」
もちろん、そうなってくれたら願ったり叶ったりなのだけど。
「コイビトになる約束です」 と、そう言って誤魔化した。内心、約束というよりは手付かもしれない、などと考えながら。 「じゃ、僕も!」 止めるまもなく高耶が伸び上がる。とたんに頬に感じた柔らかな感触に、心臓が跳ね上がった折も折り、廊下から二人の名を呼ぶ春枝の声がした。 「はーい」
硬直している直江をよそに高耶が身軽に立ち上がり、ドアを開けて両手の塞がった春枝を招き入れる。 「うわあ!おいしそうだね!」 「高耶くんの桃と……それからフレンチトーストにしてみたの。義明、朝から何も食べてないのよ。……お相伴してあげてね」 高耶が吃驚して振り返った。 「ほんとに?ほんとうに朝から何も食べてないの?……おなかすいて死んじゃわない?」 八の字に寄った眉で心配そうに訊いてくるのに思わず笑いが零れた。 「……今なら食べられそうな気がします。一緒に食べてくださいね」
|