先日、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続きというか前振りというか背景というか・・・。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―なれそめ―
先代が建てたという光厳寺所有の古びた家作。 今時、こんなぼろやを借りる物好きはいないと長兄が断言して憚らなかった、その長屋の一画に借り手がついたのは、まだ春も浅い頃だった。 だだっ広い敷地にへだてられてはいてもいわゆるお隣りさんであり、大家という立場もある。偵察がてら(と、直江は思っている)自治会の案内を持って挨拶に出向いた春枝は、やがて、少しとまどったようなおももちで戻ってきた。 曰く。その仰木という借家人には、まだ小さな子どもがいるらしい、と。
別に支障はないだろう。そう、直江は思った。 だが、母の懸念は別な方をむいているようだった。 「だって、こんな寂しい処なのよ?墓地と林に囲まれて。自然がいっぱいといえば聞こえはいいけど、孟母三遷の例えもあるでしょう?学校にもかなり歩かなきゃいけないし、好んで子育てしたい場所とも思えないわ。」 それではその寺の境内を遊び場に育てられた、自分たち兄弟の立場はいったいどうなるのだろう?と、 内心で嘆息しながら、訊き返した。 「それで?その仰木さんはうちを選んだ理由をなんて言ったんです?」 「勤め先に近くて家賃が格安だったからですって。お子さんのことは考えにも入れなかったような口ぶりだったわ。今度一年生になる男の子らしいんだけど…、入学するのを機に一緒に暮らすことにしました…って。じゃあ、それまでは別々だったのかしら?詳しくは伺えなかったけどなにか訳ありみたいねえ……」 「はあ……」
「高耶くん、恥かしがりなの。でもすごくいい子なのよ。」
そう言って子どもを庇う母の顔は、まるで慈母のそれだった。 「義明。あなたも学校が始まったらちゃんと面倒見てあげてね。まだこのあたりには不慣れなんだから」 「はあ」
まさしく、鶴の一声。
話し掛けるでなく視線を合わせるでなく、それでも懸命にはぐれまいとして一定の間隔をあけて追いかけてくる。
自分が立ち止まれば一緒に止まるし、声を掛けようと振り向けばそっぽを向いて慌てて隠れようとする。
その様子がやっぱり警戒心の強い仔猫のようで、笑いをかみ殺して歩くうちに、ようやく道は、人通りの多い通りへと合流した。
「おはようございます」 ぴたりと立ち止まって視線を合わせ、逃がさないよう気迫を込めた声を出す。 「あ……、お、おはようございます」
咎められると思ったか、それとも緊張してるのか、どもりながら高耶は小さく挨拶を返した。 「高耶さんでしょ?今度越してきた仰木さんとこの。せっかく同じ方向なのに、ふたり黙って歩くのもつまらないから、少しお話しませんか?」 「え?」 吃驚したように見上げてくるこどもらしい柔らかい顔立ちが、匂いたつように輝いたその瞬間を、直江は生涯忘れることはないと思う。
莟んでいた花が綻ぶように、群雲から月影が射すように、みるみる高耶の表情が明るくなる。
|
「プレゼントとして僕が遊んであげるからボウリングに行こう」
ね?ね?ね?…なにかこう、悶えるほどにこみあげてくるモノがあると思いませんか?みなさま?(笑)
即物的にポテチとカレーパンをもらっていた私は、この言葉に撃沈しました。
で、発作的に書き殴ったのがあの話。
…素直に言葉どおりの意味に使えなかったのが、少々心苦しいです。
改めまして、月花草さん(と、そのお子さんにも)どうもありがとうございました。