先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―おとまり 高耶side―
それは、楽しい時間のはずだった。 まだまだ話し足りなくて、しまいには直江の布団に潜りこんでまで続けようとした昔話。 あれも話そう。これも聞いてもらわなくちゃ。 そんなふうに、きちんと頭の中で流れまで組み立てていたはずなのに、突然、何か熱いものが喉に詰まって声が出せなくなってしまった。 無理をすれば、きっと潰されたカエルみたいなヘンな裏声が出てしまう。そう思って一生懸命自分を落ち着かせようとした。 今は泣きたいわけじゃない。直江に聞かせたい、直江が居なかった時のただの思い出話なんだから。全然、悲しいことなんかない。 でも、だめだった。 込み上げてくる何かは、どんどんせりあがってきて。鼻の奥までつーんと痛くなってきた。 もう話すどころじゃない。このままでは直江に気づかれてしまう。直江はすごく心配性だから。泣いてるところなんか見せたら、どこか痛いのか苦しいのか?と、おろおろしながら訊いてくるに決まってる。 それだけは厭だ。 何故こんなに胸がいっぱいで涙がでそうなのか、自分にだってわからないのに、説明なんてしようがない。 だから、必死に堪えていたのに。 「高耶さんっ!?」 その直江の一言でばれたのが解かった。 とんでもなく恥かしかった。もう小さくないのだと、大見得切ったばかりなのに。こんなふうに泣きじゃくる姿を見られるのは。 顔だけでも隠したくてぐりぐりと直江の胸に頭を押し付けた。 なんでもないから放っておいてと、言葉にならない叫びをあげて。 そんな時間稼ぎがいつまでも通じないことも解かっていたけど、他にどうしようもなかった。 でも、直江は。 壁のように感じていた視線の力がふっと消えて、おかげで抗するように強張っていた自分の身体からぷしゅんと力が抜けていく。力が抜けたのは、身体だけじゃなくて心もだ。直江のパジャマを握りしめて、気がついたら、頼りない声でしゃくりあげていたから。 …ずっと我慢していたんですね…… …全部吐き出してしまうといい………私も忘れるから…… ひどく遠くに声を聞いた。穏やかで優しい、真摯な直江の声を。 直江は絶対嘘をつかない。忘れるといったら、きっと忘れる。今夜のことはもうこれきり。 泣いてみっともないところを曝したとしても、直江はそのまま受け止めて、そして忘れる。なかったことにしてくれる。 そう納得したら、もう涙はとまらなかった。わけのわからない何かの所為じゃなく、直江の傍に帰ってきたのだと、今度はそれが嬉しくて。 思い切り声を上げて泣いた。手放しで泣くのは結構気持ちいいものだと、初めて気づいた。 優しい手が背中を撫でてくれて、懐かしい匂いがして、腫れた瞼がだんだん重くなってきて ―――いつのまにか、自分はそのまま眠ってしまったけど。 恥かしさよりも気まずさよりも、ただ底なしの安堵に包まれていたことを覚えている。 約束通り、直江はこの夜のことを口にしないから、自分も敢えては告げないけれど。 まだ、『愛』未満『恋』以前だけど、でも、受身でいた三年前とは違う、直江にだけ抱く特別な感情。 そんな想いが自分の裡にあることをはっきりと自覚したのはこの夜からだったのだと、時々、密かに高耶は思い返している。 |