はじめに


先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。

以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。











Precious ―その夜―



(……愛しているんです。あなたと同じぐらい、いえ、たぶんそれよりもっと前から)

四年前に直江がくれた言葉の一字一句を、もちろん高耶は憶えている。でもそれはあくまで直江の主観。事実とはすこし違っていると思うのだ。
だって直江が気づくずっと前から、高耶は直江を見知っていたのだから。
幼い目線で見上げる直江は畏怖を感じるほどの長身だったし、整った顔立ちとその身を包む黒の詰襟が、近寄りがたさを増幅させた。
春枝には笑われたけれど、高耶の眼には本当に大天使にみえた。
あの日、その怖いはずの直江が道端で呼びかけて微笑んでくれるまで。

宝物のように抱きかかえられ寝室へと運ばれながら、すがる腕に力がこもる。

きっとあの時から好きだった。
きれいで優しいおまえのことが。
その気持ちに名づけることは出来ないうちから。ずっと。
……だから、こうなることが嬉しい。

互いに無言のままだったけれど、背中に回された手がさらに一層きつく抱き寄せてくれた。

見慣れていたはずの直江の部屋は、ベッドに横たえられるとまるで眺めが違う気がした。
それでも枕に頭が沈めばふわりと鼻腔に届くのは洗いたてのリネンの香と、そして微か な直江の残り香。なによりも安堵を誘う匂いに背筋がジンと痺れた。
すぐに直江が覆いかぶさってきて、愛しそうに髪の毛に触れてくる。
その手で頬を包み込まれた。 心持ち顎を持ち上げるその仕草に高耶は瞼を閉じ、落ちてくる口づけを受け止めた。

今までも、キスは何度も交わしていた。
けれど、これからの行為を予感させるような深いものは初めてだった。
濡れた感触と淫猥な音と熱くて柔らかな舌の動き。
「ふぁ……んぅ…」
あまったるい息が鼻に抜けて、やるせないような疼きが身体の奥から湧き上がる。
一枚また一枚と脱がされて、直江もまた自分の着衣を脱ぎ落としていく。
その微妙な間がどうにも恥かしくて、再び直江が被さってきた時には迎えるようにしがみついた。
心のうちに潜む怯えをたぶん直江は嗅ぎ取ったのだろう。
「……本当にいいの?」
今更なことを訊いてくるから、夢中で頷いて今度は自分から唇を押しつけた。
これから自分たちがどんなことをするのか、高耶だって知っている。
それがまったく怖くないといったら嘘になるけど、宙ぶらりんでいるよりはずっといい。 今はただ直江と身体を重ねることで想い続けてきた年月に一つの区切りをつけたかった。

直江はもう躊躇わなかった。


「……声を出して、高耶さん。その方がラクだから」
何度直江に促されても高耶は唇を引き結び、頑ななまでに首を振って衝動をやり過ごす。
あらぬところを暴かれて舐められる。
それが必要なルーティンだと頭では理解っていても、押し寄せる羞恥はどうにもならなかった。
声を出せば、きっと生理的な拒絶の言葉が口を衝く。 それが本心ではないと直江は察してくれるだろう。でもやっぱり抗うそぶりは毛筋ほどにも見せたくない。
そんな思いと感情とが錯綜して、高耶の陥る惑乱はますます深まっていく。
気が遠くなりそうなほどの長い愛撫のすえにようやく熱い切っ先があてがわれた時は、だから、むしろほっとする思いがした。
どんな痛みでもいい。 それが直江のくれるものなら。

灼熱の衝撃が身の裡を貫いていく。
覚悟はしていてもやはりそれを受け入れるのは、かなり辛いことだった。
「うぅっ…!」
その瞬間の苦鳴をかみ殺し息を詰める高耶の頬に、直江の手が伸ばされる。
羽のような感触におずおずと眼を開けると、ぼやけた視界に鳶色の瞳が飛び込んできた。
とても真剣に、痛ましそうな表情をして直江が言った。
「……もう、逃がしてあげられない。どんなにあなたが嫌がったとしてももう止められない。だから―――」
好きなだけ泣き喚いて。どれだけ罵っても爪を立ててもかまわないから、と。
情欲を潜めた声で囁かれて、ああ、と高耶が吐息を洩らす。
こくりと頷いて眼を瞑り、全身から力を抜いた。
直江は全部解ってくれている。自分の心情も惑乱もなにもかも。
涙が溢れた。
この涙の意味さえ、この男は見誤ることはないだろう。 痛みと羞恥と怯えと、それを上回るほどの安堵と歓びとに流れる涙なのだと。
泣いたまま笑おうとした。ぎくしゃくと腕を伸ばし抱き返した。好きだと伝えた。
直江が微笑んで顔中に優しいキスをくれる。
眦に溜まる雫を吸われて震えが走った。
「んっ…!」
呼気にまじる艶やかな声はもう抑えようがなく、次から次へと唇から零れ落ちた。

その後も直江は急がなかった。慣れぬ緊張に強張る高耶をゆるゆると宥めては、少しずつ穿ちいる。
ドクドク脈打つ鼓動と痛みと、さざなみのように静かに満ちる愉悦と。
ばらばらに引き裂かれていた感覚が次第にひとつに溶け合いない交ぜになって、高耶を未知の絶頂へと押し流していく。
荒ぐ呼吸の下で直江が繰り返し名を呼んでくれた気がする。 そのたび高耶も何かを叫び返したけれど、もう定かではない。
波頭が砕けて波の花が散るように頭の中で光が弾け、まなうらを覆う一面の白を視たのが、その夜の高耶の最後の記憶だった。








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最初は16か17でした。このシーン(おい)
18だといささか育ちすぎなんじゃ?なんて考えたりもしたのですが。
大きくても小さくても高耶さんは高耶さんなのだった…(笑)
話の筋は無視してくださってかまいません(殴)
みなさまのお好きな年齢設定でお読みいただければと思います。m(__)m








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