先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―いとしいひと 3―
あれから四年が過ぎた。 そして今、高耶は目の前にいて、微笑みながら自分の顔を覗きこんでいる。 まったく夢のようだと直江は思う。 自ら望んだこととはいえ火の消えたような味気ない日々の後に、再びこうして彼と一緒に暮らせるのは。 親元で高校を卒業した高耶は、今度は大学へ通うために改めて直江の許に身を寄せることとなったのだ。 離れていた数年間で、彼は本当に大きくなった。 伸びた上背はもちろん、精神的にも。 まだ小さな妹と新しい母親と。ただ護られるだけでなく初めて自分が護るべき存在を得たことが、高耶の持つ生来の気質をまっすぐに育んだのだ。 男らしく大人びた顔に浮ぶ自信に満ちた表情が、家族と過ごした彼の充実ぶりを雄弁に物語っている。 「……ヤセ我慢をしてまであなたを帰したのは無駄ではなかったみたいですね」 しみじみと口をついた直江の言葉に高耶が破顔した。子どもの頃そのままの輝くような笑顔だった。 「うん。全然無駄じゃなかった。あの時迷ってたオレのことを諭してくれたからオレは家族の団欒の中で大きくなれた。 父さんや母さんや奈々美と暮らすのはすごく楽しかった。みんな直江のおかげ。ありがとな」 掠めるように彼の唇が触れてくる。 何度か交わしたことのある、触れるだけのキス。乾いた感触の柔らかなそれはすぐに離れていって、代わりにしなやかな彼の腕が首に巻きついた。 「でももう、我慢なんてしなくていいんだけど」 蚊の鳴くような声で呟いてぎゅっと肩口にしがみついているのは、きっと赤くなった顔を見られたくない所為。 唐突で初々しい高耶からの求愛に、今度は直江が破顔する番だった。 出逢ってから十余年。想いの丈を告げてからでさえ四年。いまだ一線を超えず清い関係でいることに彼の方が痺れを切らしたらしい。 いつだって思い切りよく飛んでくれるのは高耶の方。 でも自分を信じて敢えてそうしてくれるというのなら。 もう構わないだろうか。保護者の立場から一歩進んで恋人となっても。 桜色に火照る耳朶を捉えて、あの時と同じ言葉をもう一度囁いた。 「一生大切にしますから。どうか、私のものになってください」 「……うん」 微かに頷いた彼の身体にしっかりと腕を回して抱き上げると、直江はそのままリビングを後にした。 寝室のドアが閉ざされる。 愛しい人とはじめて肌を重ねる夜が静かに更けて、 そうして、希は成就したのだった。 いつもと同じに夜明けはやってくる。 けれど、今日からは今までとは違う朝、違う一日。 身も心もひとつになった最愛の人とともに暮らす日々がこれからはじまるのだから。 カーテンに遮られた薄闇の中で、直江が静かに微笑んだ。 腕の中の高耶は、まだ深い眠りの中にいる。 無防備なその寝顔をもっと眺めていたいような気もするし、早く目覚めてその美しい瞳を見せてほしいとも思う。 瞼をあげた直後の茫洋としたその瞳に最初に映るのは自分だ。 朝一番のおはようも、眠りに落ちる直前のおやすみを交わすのも。 今日の彼はいったいどんな表情でその言葉を発してくれるのだろう? 照れるだろうか。微笑むだろうか。それとも寝惚けて記憶の途切れたまま、欠伸のひとつもするのだろうか? わくわくしながらその瞬間を待っている、至福の朝、記念すべき一日の始まりだった。 |