はじめに


先日、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。

以下は、その続きというか前振りというか背景というか・・・。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。










Precious ―笑顔の功罪 1―




「今日の檀家さんの寄り合いでね、あなたの話が出たのよ」

差し向かいに座り、黙ってお茶を啜る直江に向かって、突然、母が微笑いながら切り出した。

「?」

目線だけを上げて、一応、直江は話の続きを促した。
いつものお茶の時間、母の話し相手になるのは、半分義務のようなものになっていたから。

「義明くんの雰囲気、最近変わったわねって。その方は、高耶くんといるあなたを見かけたのだと思うのだけど……連れの男の子に話し掛けるその様子がとても優しくて微笑ましくて、 あなたの浮かべる笑顔に思わず見惚れちゃった…なんておっしゃるの。
今度はぜひうちにも寄ってくださいって、わざわざあなたご指名で。
可愛い小坊主さん……にしては少々育ちすぎだけど、 お盆にお父さんのお供をしたら、おひねりはずんでいただけるわよ。どう?真面目にアルバイト考えてみない?」

「お母さん……」

きらきらとした少女のような瞳で見つめてくる母に、額を押えて直江が言った。

「お忘れかもしれませんが、あなたの息子は今高校三年の受験生でこの夏が正念場なんです。檀家さんまわりなんて、そんな時間も余裕もあるわけないじゃないですか」

「嘘ばっかり」

きっぱり断じて、ころころと春枝が笑う。

「高耶くんと遊ぶ時間はあるくせに?おうちの手伝いは出来ないの?」

からかうように問い掛けられて、憤然として直江が返す。

「それは気分転換です。ペース配分は考えてますから、ご心配なく」

「はいはい」

そうあっさりと引き下がられて、ようやく遊ばれていたことに直江は気づく。
まったく、我が母ながら真顔で冗談を言うものだから始末が悪い。そして、いまだにうっかりそれに引っ掛かる自分が悔しい。
これ以上の相手は御免とばかりに、湯飲みを空にして、御馳走さまと席を立つ。
そそくさと部屋に逃げ帰る息子の後ろ姿を、春枝は笑みを口元に残したままで見送った。



冗談めかしてはいたけれど、それは限りなく本心だった。
他人から指摘されるまでもない。
彼は確かに変わった。高耶と出逢って。

だが、果たして本人は自覚しているのかどうか。
彼我のあいだにぐるりと張り巡らしていた、氷のような拒絶の壁がなくなったことに。
そして、今までは近寄りがたさを強調していた、彼の整いすぎた容貌が、今度は逆に人を惹きつける結果になることに。
その優しい笑顔を受け取る権利があるのは、彼を変えた高耶一人。でもそんな事情は、周囲に理解るはずもない。

「ややこしいことにならなければいいんだけど……」

春枝がぽつりと洩らした危惧は、やがて現実のものとなって、小さな波風を直江と高耶にもたらしたのだった。






                                   イラスト/「花盗人」月花草さま


次へ









……なんだよ。たったこれだけかよ?!とお思いになった方。
すみません。ごめんなさい。 思わせぶりな前振りだけでいったん切ることをお許しください。
続きが……書くたびに違うんです(苦笑)微妙に長くもなりそうだし。少し頭を冷やします。
今回は、告知していた月花草さんの詰襟直江少年のイラストのご紹介プロローグということで…(土下座)

ところで。お供の小坊主さんへのお駄賃。おひねりでいいんでしょうか?(悩)
や、お布施とは違うだろ?と思ったもので。正しい日本語の知識が欲しいです(ーー;)








BACK