春 宵 艶 夜
―7―



ひとたび熱狂が去ってしまえば、目に映るのは無惨ともいえる光景だった。
身体を清めてやりながら、意識のない高耶の様子に改めて自分の罪深さを思い知る。
糸の切れた人形のように横たわる精液にまみれた身体。
泣き濡れた顔。
縦横に走る赤い擦過痕。散らされた刻印。
床の上で無理な姿勢を強いたための、今はまだ目立たずにいる打撲の兆し。 手首に残る戒めていた指の跡。
明日になれば、痛まないところなどないに違いない。
そして傷つけてしまった内部。二三日の間はきっと身じろぎすらままならない。
度重なる執拗な摩擦で腫れあがり血の滲み出た粘膜に、丁寧に薬を塗りこむ。
深い眠りにありながらも、苦しそうに眉を顰める高耶が痛々しく、そして愛しかった。

目覚めた時の彼は怒り狂うだろうか。羞恥のために口も利かないだろうか。
それでも。
やがて高耶は許すだろう。
反省の色もあらわに甲斐甲斐しく世話をする自分に、しょうがねえなあと、ため息をついて。てれたように微笑んで。 次はないからと、釘を刺すのも忘れずに。
そしてこの夜の行き過ぎた行為はなかったことになる。

でも、高耶は知らない。
それこそが自分の希だったのだと。

あの白い花を見るたびに、淡い香りを嗅ぐたびに、高耶は思い起こすだろう。この夜の交わりを。
甦る羞恥に耳まで赤くして、きっとうろたえたように眼を逸らす。考える余裕がなくなる。

そうなるように、自分が仕向けた。
高耶の心に棲んでいたあのしあわせな記憶は永久に封じ込めた。
より強烈な経験で強引に上書きした。盗まれたことを高耶本人にも悟られぬよう周到に。

「ひどい男でしょう?……自分のためなら、平気であなたのものまで掠め取る。自分の腕だけに囲いたがる。でも……愛しているんです。あなたから奪ったものは、それ以上にして償うから……。どうか私を憐れんで、許してください…」

髪の毛に触れながら、無心に眠る高耶に祈る。
直江の顔には、ちょうど一月前、あの親子を眺めていた高耶と同じ表情が浮んでいた。





戻る






当時は自分がこんなものを書けると思わなくて(苦笑)
これ、本にしても大丈夫だろうか?とミラ友さんにお伺いをたてました。
で、返ってきた感想が
行為そのものより、記憶を消そうとする動機がキチクだと(^_^;)
で、某さんからはupしたら挿絵をupするよ。と…
つくづく今も昔もお友達に恵まれた私はシアワセものだと思います



BACK