離れていたのは、一月ほどのことだった。 直江は香港で、高耶は日本で、互いのいない一月を暮らした。 以前はもっと長い間顔を見られなかったこともある。だから、今度も、平気。 そう自分に言い聞かせそれなりに日常をこなしていても、心にぽっかりと穴の開いたような寂寥はどうしようもない。 だって、想いを確かめ合ってからはいつも一緒だったのだ。子どもの頃の暮らしぶりとは比べようもないのだと、改めて直江を恋うる日々だった。 そうして一枚一枚日めくりを剥し、ようやく迎えた帰国の日。 山ほどのお土産と、積もる話と、焦がれ続けていた愛しい人の笑顔。自然と華やぐ屋敷の雰囲気。 そして、その狂騒めいた高揚は当然のこと、ふたりきりの夜に持ち越された。 嵐のような情交だった。 気遣うことを忘れ気遣われることを望まずに官能にもみくちゃにされながら、ただ互いを貪った。 こんなにも餓えていた、こんなにも欲しかったのだとお互い相手に知らしめたくて。 そうしてふたり幾つものうねりを越え、深いところが満たされて、ようやく訪れた凪の時間。 口移しに水を飲まされたのは憶えている。でも、そのあとはまた意識を飛ばしてしまったらしい。 確かに抱きかかえられていたはずなのに、次にはっと気がついたときには頬にさらりとしたシーツの感触があった。 「……なおえ?」 思わず声をあげ、すぐに穏やかな応えがあった。 「ここにいますよ、大丈夫」 高耶のすぐ傍、寝台の端に直江が浅く腰掛けていた。夜着を羽織り、所在なげに何かを掌で弄びながら。 しまった。途中でうっかりまどろんでしまった自分に直江は興醒めしたんじゃないだろうか。夜はまだ長いのだということは口に出さずともお互い承知だったはずなのに。 「……っ、ごめんっ!オレっ」 慌てて起き直ろうとする高耶を押し留め、再び直江は口を開いた。 「どうか、そのままで。どこか辛くはないですか?一ヶ月ぶりに逢えたのが嬉しくてどうにも自分を抑えられなかった……」 自分だけを一方的に責めるような悔恨の滲む声音がたまらなくて、高耶は激しくかぶりを振る。 「そんなことないっ……。オレだってッ」 直江が欲しかった……。だから、自分だけを悪者みたいに言わないでほしいと。 そう消え入るように呟いて見上げてくる黒曜の瞳。ひたむきなその視線は言葉よりも雄弁に高耶の気持ちを伝えてきて。 まっすぐなこの人にこんなにも愛されているのだと思うと息が止まりそうになる。鎮めかけていた熱がまたじわじわと這い上がった。 「すみませんでした……」 謝りかけたことを謝って、直江はもう一度高耶の身体を抱き寄せた。赦しを与えるような仕草で高耶が直江の背中を抱き返す。ゆったりと、思わせぶりに。 どうしたって彼の方が負担は大きいのに。実際気を飛ばすほど疲弊しているというのに。それでももっと抱き合いたいと素直に表してくれる心根が、直江を至福の境地へと誘う。 出来ることなら自分も彼に同じものを返せればいいと、そう念じながら、口づけた。 |