いつ眠ったのか、憶えていない。 久しぶりに愛しい人の腕に抱かれ、情を交わし、その最中に初めてのコトをされた。 自分でも知らなかった奥深くまで開かれ、貫かれ、揺すぶられて、意識が弾けた。 ただイきたくて。 逃げ水のような絶頂に追いつきたくて。 あられもない声をあげはしたなく強請って、与えられる愛戯に溺れた。理性とか羞恥とか、そんなものは一切合財かなぐり捨てて。 昨夜はそれでよかった。 あれは自ら望んだ行為。その代償として今日は起き上がれそうにないことも、仕方がないと諦めがつく。 けれど、―――上掛けを引きかぶったその下で高耶は唇を噛む。 あれほど乱れた自分のことを、直江はいったいどう思っただろう? 相手は誰でもいいのだと、道具だけで簡単に興奮する淫蕩な身体なのだと内心蔑んでいるんじゃないだろうか。 想像するだけで居たたまれなくて、何を言われても無愛想な返事しかできず、またそれが自己嫌悪に拍車を掛けた。 ベッドの中で悶々とするうちにまた寝入ってしまったらしい。 「……や…さん、……高耶さん?」 やわらかく名を呼ばれて目が覚めた。 瞼を上げれば、すぐ傍に直江の顔。 それが嬉しくていつものようにその首筋にしがみつく。 眠ったせいで抜け落ちていた気まずさを思い出したのは、その数瞬後。 慌てて離れようとしたときには、高耶の身体は直江にしっかりと抱きすくめられていた。 「……やっ…」 「お願いだから、そんなに嫌わないで」 じたばたもがく高耶に直江が囁く。切ないような声音で。吃驚して一瞬動きの止まった高耶に、宥める言葉はさらに続いた。 「何もしません。夕べのことはいかようにでも謝りますから。だから、せめて食事は摂ってくれませんか?……朝から何も口にしていないでしょう?」 「………」 言われてみればその通りだ。自覚したとたんに急にお腹がすいた気がする。 ようやくおとなしくなった高耶に直江はほっとしたような視線を向けて、いそいそと食事の盆を運んできた。 「あの…さ」 「はい?」 「……呆れたりしてない?オレのこと」 高耶が食べている間、何くれとなく世話を焼く直江はいつもの直江で。 小腹が満たされて気分が解れてきたせいもあったのだろう。 熱いほうじ茶の湯飲みに息を吹きかけながら、気がつけば高耶は直江に直球を投げていた。 ちょっとの間、応えはなかった。 けれど、しまったと悔やむほどの暇もなかった。 俯いた視界に直江の手が大写しになって、慇懃に高耶の持つ湯飲みを取り上げる。 あっと思う間もなく、その腕に抱きしめられたから。 「そんなこと、あるわけないでしょう?」 しばらくしてから聞こえてきた直江の声はらしくなく上擦っていて。 「私の方からお願いしたんです。あなたが気に病むことじゃない。……むしろ、私が、あなたに口もききたくないほど嫌われたかと……」 感極まったみたいに途中でつかえた台詞に、高耶は自分の心配が杞憂だったのを知る。 同時に、自分同様、夕べのことでは直江もずいぶん煩悶していたのだと知って、こそばゆいような気分になった。 一番怖いのは相手に嫌われること。 結局は直江も高耶も相手を詰るよりは自分を責めるぐらいにお互いが大切なのだと、改めて解ったから。 春の陽射しを浴びたみたいに、じんわりとした温もりが広がった。 「よかった……」 ひと言呟いて全身を預けてきた高耶の仕草に、直江の顔も綻んだ。 「とっても可愛かったですよ。夕べの高耶さん」 掛け値なしの本音の言葉に、とたんにぎくりと強張る身体。 「だからね、これからもずっと、私だけに見せてください…」 これも本気のお願いに、やがて諦めたようなため息が聞こえた。 「……オレも。直江だけ……」 あまい睦言も尽きることなく。蜜の時間が流れていった。 |