花宴




彼を想う気持ちは変わらない。彼もまた慕う気持ちにかわりはない。
それでもあの夜以来、閨での空気は確実に変わった。
爛熟の香気を帯びる熱帯夜のような、ねっとりと肌にまといつく湿度と温度。 常に誠実な庇護者であろうと押し殺してきたねつい情念が夜毎の交情にも滲み出る。
彼を昂めるのに手段は選ばない。
被虐は快感を呼ぶ。それが倒錯的なものなら、なおさら。
それを少しずつ彼に教え込んだ。
戯れの間中、しきりに恥ずかしいと訴える彼の涙を吸い取りながら、でも、気持ちいいでしょう?と優しく往なして。
羞恥に身悶えていたはずが、やがて待ちきれぬ陶酔を求めて切なげに腰を振るまで。


まず、彼のための玩具が増えた。細身のものからグロテスクな形状まで、様々な種類を彼に試す。 そして勝手に弄らぬよう、どうしてほしいかちゃんと言葉で強請れるように、彼の手首を縛めた。
自由を封じられ見慣れぬ道具を目の前に翳されて、最初のうち、怯えたようにかぶりを振っていた彼の唇からあまい喘ぎが洩れ出る頃には、 下の口もすっかり解れてくちゅくちゅと絶え間ない水音を響かせる。
玩具を飲み込むいじらしい襞の様子を彼自身にも見せてあげようと、寝台の傍らに姿見を据えつけた。
後ろ抱きに抱いてその姿を映し出し、可愛らしいでしょう?と顔を上げさせれば、彼は満面に朱を散らして眼を逸らす。
こういう遊びは嫌?と訊ねれば、瞳にうっすら涙を滲ませ小さな声で恥ずかしいと応えるから。
恥ずかしいから気持ちいいんですよとしたり顔で返してやると、 彼は弾かれたように目線を上げた。
鏡越しに交わる視線。
見透かすような直江の笑みに、彼は、またかあっと赤くなる。
同時に内部もきゅうと玩具を絞り上げてきたから、添えていた手で小刻みに揺らしてやった。
「やッ!」
とたんに零れる悲鳴とびくびくしなう彼の屹立。
「ほら。解ったでしょう?恥ずかしいコトは感じるってコトなんです。だから、隠さないで全部見せて高耶さんもヨくなって……」
あやすように彼のモノを包みとってあまったるく唆すと、彼はがくがく頷きながら全身を痙攣させて白いものを吐き出した。
「とっても可愛い」
首筋を舐め上げながら、息も整わぬ彼の肢体をじっくりと流し見る。
直江に抱かれて鏡に映る彼は、その放心した貌も弛緩した身体からも色香を放ち、たいそう魅力的だった。
「でもせっかくだから、もっと可愛くキモチヨクしてあげましょうね……」
まだ夢うつつでいる高耶に直江もまたそう魅惑的に囁いて、彼に施す更なる戯れを思案した。

眼に留まったのはサイドテーブルの一輪挿し。
飾られていた秋桜をためつすがめつ検分して、花首から続く華奢な茎を無造作に折り取る。 そうして手に入れた新たな責具を、精液を噴きだしまだ閉ざしきらないでいる小さな孔に潜り込ませた。
「ひッ……!」
高耶の喉から引きつった声が洩れる。
本来排出するだけの器官に異物を挿入されるのは、やはり強烈な違和感があるのだろう。 射精後の気だるい余韻から一気に引き摺り戻された彼は、ありえない感覚に大きく眼を見開き、身体を強張らせている。
「大丈夫。これはこんなに細くてしなやかな茎だから。あなたを傷つけたりしませんよ。ゆっくりするから少しだけ我慢して……」
助けを乞う無言の眼差しに極上の笑みを向ける。 彼にとっては残酷な宣告でしかない慰めを口にして。
男に止める意思がないと悟って、高耶の貌が泣き出しそうに歪んだ。
それもまた見惚れるほどそそられる表情だけどそうそう見つめてばかりもいられない。
なにしろ彼のデリケートな部分を弄っているのだ。花をつまむ指先に神経を集中させて慎重にその先端を操った。

スモモのような彼の性器に若草色した細茎がじわじわ埋め込まれていく。反対側には重たげに首を揺らす臙脂の花。
それらの取り合わせは妙に現実離れしていて、そのくせ酷く淫猥で。
普段なら気にも留めない事実――花自体が植物の生殖を担う器官であること――を改めて思い起こさせた。
「こんなに可憐なもの同士なのに、なんだか少し妬けますね。花とひとつに繋がるのはどんな気分?」
ちらりと窺い見る彼もまた、直江とは別の意味で自分に為される行為から眼を離せないようだった。
戯言も耳に入らぬ風に息を詰め、居竦んだまま自分を弄う男の指と花とを凝視している。
四五寸ほどの長さを含ませるのにいったいどれだけの時間が掛かったのか。
時折聞こえる浅い呼吸、手にした茎は確実に短くなっていって、 ついに彼の先端に花首が触れた。
これ以上の挿入はないと安堵して、高耶が長く溜めた息を吐く。羽根のように軽いタッチで直江の指が花蕊に触れたのはその瞬間だった。

「――――っ!!」
声にもならない悲鳴を上げて高耶がのけぞる。
あるかなしかに加えられた力に押されて、潜り込んでいた茎の先端がちょうど奥のしこりに当たったのだ。 いつもと違う敏感な部分からの予期せぬ刺激は、剥き出しの神経を直に握りこまれるような、 痛みにも等しい圧倒的な快感をもたらした。
どうしようもない弱みを衝かれて彼が放った精液が隙間を伝ってとろとろと溢れ出て 濃赤の花弁から滴る様を、男はしばらく凝と見つめていた。

「……そっと触れただけでイっちゃったの?困りましたね。お楽しみはまだこれからなのに」
片手で彼の屹立を支え、へばりつく花を摘んでほんの少し茎を引き出す。
それだけの仕草にもびくりと反応した高耶は、直江の指先が器用に茎を挟みくるくる回しだすと、半狂乱の態で泣き叫んだ。
「駄目ぇっっ!それヤだっ!もう、やめっ…!」
「……そんなに嫌?」
こくこくと泣きながら高耶が頷く。何度も何度も、まるで首振り人形みたいに。
鋭利なナイフを柔肌に滑らせるような痛みと紙一重の鋭い快感は、まだ悦楽よりも恐怖の感情が勝るのだろうか。
本気で怯える様子に手を止めて宥めるキスを頬に落とした。唇に残るのは塩辛い涙の味。
歓喜からではなく恐慌に陥らせたあげくのその味をゆっくりと直江は舐め取る。

「じゃあ、どうしたらいいの?このままでは高耶さんが辛いだけですよ?」
なにしろ彼のオスはまだ花冠を戴いたまま天を向いて猛っているのだ。 抜き取るにしても、彼には先程以上の刺激に耐えてもらわねばならない。
時折思い出したようにしゃくり上げながらも、幾分落ち着いてきた彼にやわらかく問いかけた。 問いかけはしたけれど、応えは期待していなかった。尖りすぎた神経を鎮める時間稼ぎのつもりだったのに。

「直江ので、して。……いつもみたいに、後ろ…で……ヨく、なりた……」
切れ切れだけど、そうはっきりと彼は答えた。
可憐でいながら、もみくちゃにされる野分の風にも負けず凛として起つ件の花のように。
「……お望みのままに」
精一杯の敬意を込めて彼に応えたその後は、 手首の縛めを解き彼に食ませていた道具を抜き取り、けれど前に挿し込んだ花はそのままに四つん這いに彼を這わせた。
露になった窄まりはすでにしっとり潤っていて、失った玩具を惜しむかのようにひくひく収縮を繰り返している。
見え隠れする熟れた緋色に誘われるようにして、彼に覆い被さった。
「今あげるから……キモチイイことだけいっぱい感じて…」
「うん……」
ぱさりと黒髪が揺れた、それが、合図。
直江は己のもので一気に貫き、高耶に甲高い嬌声を上げさせた。




続く





ちょっと長くなっちゃったんで、いったんここで区切ります
直江さん、最初は順調にキチク路線だったんですが(殴)、さて??








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