彼に似合う白

―4―




流されてきた頃のオレみたいに、と。

そう、さらりと高耶は言った。
とても大事な含みのある言葉を、羽根のように軽やかに。

瞳を見合わせたその間に、彼との出逢いからその後の暮らしがフラッシュバックする。拒まれないのを幸い、意思のない彼をいいように嬲っていたあの頃の、彼と自分の歪な関係を。
それは高耶も同様だったのだろう。微妙な表情で固まる直江に、淡々と問い掛けた。

なあ、軽蔑したか?際限なくねだって腰を振り続けたオレのこと?
卑しい……淫乱なケダモノだって呆れながら抱いていたか?

そんなことはない。責められるべきはむしろ自分の方なのだ、と。
間髪いれずに直江は高耶に懇願する。
お願いだから、そんな哀しい物言いはしないでください。と。

でも事実だから。

本当に哀しそうに高耶は目を伏せた。
おまえじゃなくてもよかったんだ。理の代わりに精気を分けてくれるなら、誰でも。

それは……死にたくなかったということでしょう?
一瞬の絶句の後に、かろうじて直江は声を絞り出す。

うん。死にたくなかった。消えたくはなかった。
流されたのはオレだけじゃない。蝕は……の真ん中を抜けたから、一緒に巻き込まれた連中は他にもいたんだ。
……みんな、いなくなった。変質していったんだ。薄く希薄に引き延ばされて、やがて自我が消えて、こっちの影と融合してしまった……。使い魔にさえなれない、そんな矮小なものに。
皮肉なもんだな。半獣のオレだけが最後に残った。本来の姿から人の形に転じたのは……たぶん本能だったんだろう。まともな思考すら出来なくなっていたから。
そうやって転がって、待った。気をくれそうな誰かを。網を張った蜘蛛みたいに。
そうして、おまえに拾われた……。

おまえに抱かれて、おまえの陽気を取り込んで、少しずつオレの中にも影が出来て……。
一度は手放した意識が深層でまどろみはじめた頃、おまえに名を呼ばれて、一気に枷がはずれた。ようやく自分を取り戻せたんだ。

名前に縛られたからだけじゃない。
おまえはずっと、オレにとっては天そのものだった。……たったひとつの。


語る想いとともに、俯いていた高耶の貌が次第にあがる。
自分をみつめる瞳に嘘はない。欺瞞も、打算も。
生きることだけに貪欲で、だからこそ彼の魂は美しいのだと、その黒耀の瞳に魅入られながら直江は思う。
いつだって矢のようにまっすぐに懐の中に飛び込んでくる、高耶の想い。
欲される以上に実は自分も欲しているのだと、先ほど閃かせた直江の妬心に対して返された、これが彼の応え。

もう、何も言えずに、ただただ直江はきつく高耶を抱きしめた。
不意打ちでの荒々しい動きに内部の体液が流れ出して、その感触に高耶が息を呑む。
そんな彼の耳元に舐めるように囁いた。

零れるのが気にならないぐらい、またすぐにいっぱいにしてあげますから……。好きなだけ取り込めばいい。あなたの中に。

内腿を伝うものをすくいとった手で、塗りたくるように頬を撫でていく。
その愛撫が唇の際まできたとき、高耶は躊躇うことなく眼を細めてその指を受け入れた。
赤ん坊のように無心にしゃぶるその様子に、直江の貌にもまた微笑が浮ぶ。


どんな白より美しく彼を装わせる白を、自分だけが知っているのだと。




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煮詰まったときは、まず削ります。
削って削って自分が譲れない部分までばっさり枝葉を切り落とします。
……後に残るは屍の山。ボツ部分をまとめたらきっと本文より長いと思う……(ーー;)
今回、エロもシカバネ組でした。ごめんなさい<(_ _)>




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