サロメの舞
―1―




一日でいい。どうか私だけのものになって。

そう、男は懇願した。
あなたは何もしなくていい、 ただ私のものになって私だけを見て私の声だけを聞いて私を拒まないで、そうして一日過ごさせてほしい。 誓って無体な真似はしないからと。
訴えかけてくる瞳は火傷しそうに熱くて、とても切なげで。
正直、素直に受け入れるのは躊躇われた。
けれど、それが男の本気の希なのはよく解ったから、 断ることも論外で。
もともと欲しいものを訊いたのは自分なのだしと思い直して、おっかなびっくりの同意を与えた。


でもさ、オレはもうとっくにおまえのものだと思うんだけど。 そんなんで、本当にいいの?

年に一度の誕生祝なのにと、戸惑う気持ちのままに小首傾げて高耶が問う。
そんな仕草ひとつに直江は破顔して、すぐにまた真顔になった。

なりますよ。誰にも邪魔されないであなたを独占できるなら。 次の年もまたその次も、出来ることなら未来永劫ずっとお願いしたいくらいだ、と言い切って。
楽しみですねえと、嬉しそうに目元を緩めるから。

うん。

その陽だまりみたいな表情に安心して、ようやく高耶も微笑んだ。



そんなやりとりがあって暫く経った五月の始め、直江が高耶を連れ出したのは、 海が望めるなだらかな丘に建つコテージだった。

「うわあ!」
思い切り駆け回ったり寝転んだりしたらさぞかし爽快な気分だろう、そんな 拓けた風景と鮮やかな芝の緑に、高耶が歓声をあげる。
けれども直江はまっすぐに向った瀟洒なポーチから手招きして。
「どうぞ。こちらです」
「あ、うん」
後ろ髪引かれる様子の高耶を恭しく招きいれ、そして静かにドアを閉ざす。
ここから先は二人きりの空間、何人たりとも立ち入らせないと、無言のうちに誇示するように。





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ちょっくら現実逃避の旅にお付き合いを<(_ _)>



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