彼を運んだのは薄闇漂う寝室、紗の薄布に覆われた広いベッド。 昼とは真逆の、濃密に閉ざされた奥殿の裡で、高耶は再び艶やかに華開き、その精を散らした。 荒く胸を波打たせ、絶え絶えに呼吸をつくそのたびに涼やかな鈴の音が鳴る。 しどけなく褥に横たわるその裸身を、金の足環以外は何も身に帯びぬ彼を、直江は息潜めるようにして見つめている。 巧妙に張り巡らした言葉で彼を絡めとり、所有の証にと戯れにこの環を嵌めた。 仮初めでいい、彼は自分の所有なのだと彼にも見せつけたかった。 それなのに。 姑息な思惑をはるかに超えて、彼は、古の王女のしたように幾重にも纏った衣を鮮やかに脱ぎ落してみせた。 その身に羽織った桜の衣だけではなく、理性や良識や含羞、彼を彼たらしめ、律していた諸々の心の動きをすべて。 官能という舞の中で。 他ならぬ自分のためだけに。心の底まで曝してくれたのだ。 本当にこの人には敵わないと、心から思う。 ひれ伏したいほど希ったその人に、真実欲しいものを無造作に投げ与えられる畏れと至福に酔い痴れる。 (なおえ……) 唇だけを動かし視線を泳がせて高耶が呼ぶ。 もうろくに力もはいらない身体で、それでも自分を欲しがってくれる素の彼がたまらなく愛しくて。 「ここにいますよ……」 やわらかく応えて、その肢体を抱きよせる。 そうして直江は、高耶もろとも、蜜のような悦楽に溺れていった。 閉ざされた帳の中で、ふたつの影が絡み合う。 洩れ聞こえるのはあえかな悲鳴と、秘めやかな鈴の音。 天上の楽の音に紛れ、幾度となく華開いては数限りなく散る白。 すべては妖しくも美しいサロメの舞、一夜の幻影。 |