高耶の身体をうつ伏せ、腰だけ高く上げさせて、枕やクッションを押し込んで固定する。 割り広げた脚の間に陣取って白い臀の丸みをいとおしそうにさすりながら、説明するともなく呟いた。 「俗に言う獣の体位……四つん這いに抵抗があるかも知れませんが、たぶんこれが一番無理のない格好です。 お互いの顔が見えないのも不安かもしれないけれど。誓って酷い真似はしませんから。 身体の力を抜いて、ゆっくり大きく呼吸をしていて」 枕に押し当てられた黒い頭が微かに動く。貝殻骨がゆったりと上下して、高耶が素直に従ったと解った。 「お利口さんだ……」 臀に掛けた手を押し広げる。 曝された秘処は、先ほど溢れ出た体液が流れ伝ったせいでまだしっとりと湿っている。 もう昨夜の蹂躙などなかったかのように慎ましく菫色した口を閉ざしていたけれど。 しばらく眺めていると、時折焦れたみたいにひくついて、直江を微笑ませた。 滑った臀裂のカーブに沿ってゆっくり指を滑らせる。 ひくっと、今度は高耶が痙攣した。 直江の笑みが大きくなる。 「濡れてはいるけれど、これじゃ足りない……」 言うなり顔を近づけて、高耶の秘処を舐めあげる。 「――――ッ!」 枕越し、くぐもった悲鳴が上がった。 くちゅっ……ぴちゃ…… 濡れた淫猥な音が再び室内に響く。先程よりもまた一段と濃密さを増して。 たっぷりと唾液で湿し、指と舌とで愛撫を重ねると、 昨夜よりずっと素直にソコは解れて口を開いた。 窄めた舌先で唾液を流し込んでは出し入れを繰り返し、同じように指を埋め込む。 「解る?高耶さん?指一本入りましたよ。辛くはない?」 昨夜と違うのは、彼の顔が見えないことだけれど。 枕に伏せた頭が微かに動いた。そして、眼下の背中はさらに雄弁だ。 滑らかに肉の載った若い背中は、緊張してはいるけれど強張ってはいない。本当に裂かれる苦痛はないのに違いない。 含ませた指を緩やかにくねらせる。彼の快感点を掠めるように狙い定めて。 びくびくと、面白いように身体が跳ねる。 白い背中が見る間に夕映え色に染まっていく。 本当に、この人はなんて美しいんだろう。 うっとり見つめながらも、弄う手は休めない。ぐちゅぐちゅと彼の中から聞こえる水音が次第に高く大きくなった。 それはきっと、与えた滑りだけではなく、彼の内部からも濡れ始めている証。 オトコに抱かれるための身体――――彼はそう生まれついている。 「――入れますよ」 指を引き抜き、とっくに先走りを溢れさせている自分のモノを宛がった。 跳ね返すような最初の抵抗。それを破れば後はじわじわと進むだけ。 「息を吐いて。そんなに力まないで」 直江の嘆願にほんの少し締め付けが緩む。その隙を衝いてまた少し内部に押し入る。 そうして呼吸を計りながら、やがて全部を彼に埋め込んだ。 「全部、入った……お利口さんだ……」 熱くきつい締め付けを感じながら、吐息に載せて囁いた。 高耶の腰が僅かに揺れて、それがきっと返事の代わり。 同じように揺らしてみる。 軋みはしない。引き攣れもない。中が確かに潤っているのを確かめて、おもむろに腰を使った。 「……!」 「………ッ!!」 高耶のあげる声はあいにく枕に阻まれてよく聞き取れなかったけれど。 彼が後ろからでも快楽を拾っていることは十二分に伝わってきた。 下腹に手を伸ばす。彼のオスもすでに腹につくほど反りあがって蜜を滴らせていた。 握りこんで擦りあげれば、中の肉襞もきゅっと締まる。 たまらなく、気持ちいい。 快感点を狙ってさらに止めの一突き。 とくん…と、彼のオスを包んだ掌に熱いものが爆ぜる。 一度上りつめてしまったら、それ以上の責めはもう酷なだけだろう。 直江も絶頂後の蠕動に逆らうことなく、彼の中に精を放った。 しばらくそうして繋がったままでいた。 喘いでいるのか、泣いているのか、頭を垂れた彼の肩が小刻みに震えている。 彼の様子が気にはなるけれど、意地っ張りな彼のこと、泣きべそかいた姿は絶対に見られたくないだろう。 だから、高耶が自分から顔を上げるまで、 今にも崩れてしまいそうな腰をがっしりと掴みしめたまま、余燼が収まるのを待った。 やがて高耶が小さく身じろぐ。 それを合図に、いささか嵩の減じた己をそろそろと引き抜いた。 食まされていた異物がなくなって、体内に塞き止められていた体液が出口を求めて溢れ出す。 閉ざしきれない口から臀裂を伝い、内腿をゆっくりと流れ落ちていく。 その卑猥な眺めから目を離せない。 これは、自分の精と彼の醸した蜜。 躊躇うことなく、太腿に舌を這わせて舐め取った。 直江には自然な仕種に思えても高耶にとっては不意打ちだったか、舌先が触れた瞬間、彼の背中が跳ねた。 その抵抗を力尽くで封じて、後孔にも舌を伸ばした。ぎりぎりまで引き延ばされ酷使された肉襞を慰撫するように、何度も何度も繰り返し。 「高耶さん……」 腰骨を掴む力を緩めればたちまち崩れ落ちるのを支え、再び彼の身体を仰のける。 高耶はすぐに両腕で貌を隠してしまったけれど。 それにはかまわず、次は彼の下腹を清めにかかった。 みぞおちからなだらかな腹筋を伝って臍の窪み。 さらにその下の下生えの際、刻印を標した鼠蹊、もちろん彼自身にも。飛び散り溢れ出した白濁を拭い取る。 いつぞや彼がそうしてくれたように、隅々まで丹念に。 すべてが終わって身を起こそうとした時、突然彼の腕が伸びてきた。 「ッ!」 バランスを失って彼を潰しそうになるのを、咄嗟に手を突き自重を支える。 高耶は、そうやって直江の顔が近づくのを待っていたみたいにその首に腕を絡めてきた。 「あ…りがと」 頬と頬とが触れ合い、でも視界には映らない位置から、耳元にそう囁かれる。 「すっげー、気持ちよかった……ありがと。直江……」 確かに聞こえた高耶の言葉。 一方の直江は驚きすぎて声も出ない。やがて、徐々に笑いが込み上げる。 相変わらず高耶は首にしがみ付いたまま離れない。 それはきっと、恥ずかしすぎてまともに目を合わせられないから。 それでもいい。理由はどうあれ高耶からモーションを掛けてくれたことがなにより嬉しかった。 「俺のほうこそ。ありがとう。高耶さん」 同じように声を潜めて囁き返す。 「……もう少しだけ、このままでいい?」 暫くの間があってこくりと頷く気配。 もしかしたら、彼は見つめあう気まずい瞬間を先延ばしにしたかっただけかもしれないけれど。かまわない。 こうして高耶を抱きしめていられるのだから。 しばらくして、静かな寝息が聞こえてきた。 首に掛けられた腕を、彼を起こさぬようにそっと外す。 ようやくまじまじと見つめることのできた高耶の貌は微かに微笑んでいるようで。 「おやすみなさい。よい夢を……」 直江は自らの体温と毛布とで高耶を包みこみ、満ち足りた思いで瞼を閉じた。 |