金を渡した直後、彼は思い詰めた表情で三日間の猶予を願った。 「図々しいのは解ってる。でも、もう金の心配しなくていいのと半年留守にすることを、妹だけにはちゃんと逢って伝えておきたい……」 なんとも古典的な詐欺の手口の口上だ。もしも彼以外の口から出た台詞なら。 でも彼ならきっと言葉通りの一念しかないのだろう。 彼はきっと戻ってくる。愚直なほどに真っ直ぐなメロスのように。 せめてもの意趣返しにわざとらしいため息を吐き、仕方ないですねと、もったいぶった許可を与えた。 すんなり要求が通ったことに、言い出した彼の方が驚いている。それを承知で尊大な態度で指示を繰り出す。 「妹さんはどちらに?いえ、詳しい場所は言わなくてもいい。これから夜行で帰れる距離ですか?まだ最終に間に合う?そう、 じゃ、今すぐお帰りなさい。その代わりあげられるお休みは二日です。それ以上は私の我慢が利かない。明後日の夜にまた此処で。いいですね?」 矢継ぎ早の質問に眼を白黒させて応えていた高耶が 「……あの、じゃあ、今日は?」 しなくていいのか?と、上目遣いに訊いてくるのに、苦笑で応えた。 「今夜私に抱かれたら、しばらく足腰立ちませんよ。三日なんかじゃ足りなくなる。だから、今すぐ行ってらっしゃい。 そして早く戻ってきて。あなたのセリヌンティウスが待ち焦がれていることをお忘れなく」 耳元に囁き、彼の襟足の匂いを嗅ぎ、ゆるく抱きしめてから、彼の背を押した。 暫し呆然としていた彼は、深く一礼するとすぐさま脱兎の勢いで駆け出していった。 そして、二日後、彼は約束を違えることなくやって来た。 やはり、彼は本物だ。 そのまま車に乗せて自分の住居へと連れ帰る。 どことなく不安そうにしている彼に、微笑みながら言った。 「場所が変わるからってそんなに心配しないで。別に監禁しようとか拘束しようとか思っているわけじゃない。ただ私の手許にあなたを留めておきたいんです。 昼も夜も朝も。都合のつく限り、いろんな貌のあなたを堪能したい……」 かまいませんよね?と、形ばかりの同意を求めた。 もちろん彼は頷くことしか出来ないのだけど。 「ようやくあなたをこの腕に抱ける……」 しみじみと吐息に載せて放った直江の言葉は、高耶に金で買われた身という立場を思い出させたのだろう。 初めて逢ったときと同じ、覚悟を秘めた強い光をその瞳に甦らせていた。 |