「ずっとおまえのことが怖かった……」 身体を清めた後、愛しい人を腕に抱いてシーツに包まる至福に浸っていると、寝入ったとばかり思っていた高耶が不意にくぐもった声をあげた。 その物騒な発言に、直江は一瞬ぎくりとする。 「おまえはいつも優しくて、オレはガキだったから。あんなことがなければ、今でも気がつかないままだったろうな。おまえがいつも加減してあやすみたいにオレに付き合っててくれたってこと」 「高耶さん?」 「力ずくで押さえ込まれて本当に怖かった。その気になればおまえはいつでもオレのこと好きにできるんだって。オレだって男だから。その面子を粉々にされた気分だった。 おまえと過ごすのは楽しかったけど、そうして力の差をはっきり見せつけられたらどうしたってそれまでみたいにはいられない。 オレはきっと自分より強いおまえの顔色窺うようになる。そんなふうにびくびくしながら付き合うのは真っ平だった。 ……だから、一度はあきらめようと思った」 「でもあなたは私を見捨てなかった。そうですね?」 穏やかに問いかけられて、高耶が肯く。 「オレが思うより深くおまえはオレの中に沁みこんでいて……。頭から離れてくれなくて。幻に振り回されるぐらいならいっそ本物にしておこうって思った」 「だからメールくださった……。嬉しかったです。本当に」 「まるっきり、ガキのデートだったよな」 あの時の互いのはにかみ具合を思い出して、高耶がくすりと笑いを洩らす。 「忘れたかったけど、忘れきれなくて。おまえのこと、試すみたいに当り散らして自己嫌悪に陥って。でも、いつも変わらないおまえ見てたら、だんだん悩むのも馬鹿らしくなってきた。 結局、オレはおまえが欲しくて。オレがおまえのものになってそれでおまえを手に入れられるなら、体面なんてどうでもいいやって気になって……」 「………」 そう思い切るまでにどれほどの煩悶があったか、高耶の性格を思えば想像に難くない。 自分の所為で彼に要らぬ苦痛を与えた。肉体的なものだけでなく精神的にも。 それでも高耶は自分を欲しがってくれたのだ。そして想いをきちんと伝えてくれた。感謝してもしきれなかった。 「一生、後悔はさせませんから」 だからともにいてほしいと、直江は高耶の身体を引き寄せる。 高耶は黙って頷いて、直江の胸にその額をすりつけた。 恋情という名の呪縛の糸は、今もふたりの運命を固く結び付けている。 |