天上散華

―L'ESTRO ARMONICI 2.5〜3.5―






  彼の魂は天上に咲き誇ることを約束された天華の花。
  どうあってもこの手に届かぬものならば。
  いっそ余人に触れさせぬよう、その器ごと汚濁に堕としてしまおうか。
  無垢な彼に肉の味を覚えさせ虜にして、二度と高みには還れぬように。
  日々の糧に与えるのは愛ではなく恨。
  この腕の中、貶められて歪に華開く彼は、それでもきっと息呑むほどに美しいだろう。
  男の血肉を啜り破滅をもたらす妖艶な毒花のように。







いったい幾度気をやらされたのだろう、執拗な男の手管からようやく解放された後も、高耶はただぐったりと横たわるだけだった。
見開かれたままの瞳は何も映さず、 極限まで張りつめ続けていた手足が時折ひくりと痙攣し、思い出したように嗚咽が零れる。
制御の術を失って、四肢を投げ出し身じろぎひとつできないでいるその姿は、まるで糸の切れた人形を思わせた。

初めて経験する嵐のような悦楽にもみくちゃにされて、茫然自失の態を曝す高耶を、ひそやかな満足とともに直江は見つめる。
散らされた無数の刻印。いまだ血の色を浮かせ汗に湿る艶やかな肢体。
繰り返された逐情で肌を汚した彼の白濁は、流れ伝って下生えにまで届いている。 濡れて黒々と光るその繁みと若々しい先端の蘇芳の対比がなまめかしく男の劣情を誘った。

まだ心にはこんなにも初な青さを残しているくせに。
この眺めの淫靡さはどうだろう。 こんな淫らな身体はこのままにはしておけない。
湧き上がる昏い情念に、直江は口角を吊り上げた。

再び彼を覆うように屈みこんでその頬を包む。
びくんと震えて、それでも高耶は逃げようともしなかった。

「ねえ、高耶さん、半年前の最初の日、私はあなたに訊きましたね。 奴隷に落ちる覚悟があるのか、と」

そんな彼に、毒の言葉を囁きかける。

「そしてあなたはそれに応じた」

明確な意思を持って掌が肌を滑りはじめた。

「ならば、この身体はすでにあなた自身のものでさえない、私の所有だ。ここも、ここも、そして、ここも」

頬から喉、鎖骨を辿って胸、脾腹へ。
腰骨に添って行き着くのは鼠蹊のあたり。彼の叢。
しっとりと濡れそぼったそこに、直江は思わせぶりに指を絡める。

「男一人満足させられないくせに。自分のここだけは立派に大人なんですね」

嘲るように揶揄する響き。それも耳には届かないのか、高耶はまだぼんやりと視線を虚空に彷徨わせている。

「アンバランスな未熟なカラダ。……それもまあ、一興には違いないけれど。 でも」

爪にかかった一本をつまみ、直江はおもむろに指先に力を込めた。
束の間小さな円錐をつくって、それはぷつんと皮膚から離れた。

「!」
刺すようなその痛みに、高耶が跳ねる。
ようやくに彼の視線を捉えて、直江が笑った。

「それより、この邪魔なものを取り払ってもう一度あなたを子どもに戻してあげる。未熟な中味に相応しく、外見も……ね。 どうです?素敵な思いつきでしょう?」

「……ぁ……」
信じがたいことを聞かされて、高耶が驚愕に目を瞠った。 そこに怯えの色が混じるのにぞくぞくするほどの悦びを感じながら、さらに直江は追い詰めた。

「かわらけみたいにすべすべにして、それからじっくり閨の作法を仕込んであげる。 熟れた果物がぐずぐずにとろけて、触れただけで中の汁が滲み出すみたいに。 ここが元通りに生え揃う頃にはそんなカラダになるように、あなたを作り変えてあげますよ」

まずは、そのための下拵えを、ね……

陰惨な笑みを浮かべて直江は高耶の下腹部を撫でまわし、その和毛を一本一本引き抜き始めた。

ちくちくと、 断続的に続く小さな鋭い痛みは、高耶の精神を疲弊させていった。
すでに、自分は破瓜の苦痛を与えられ、そのうえそれを凌駕する愉悦まで無理やりに味あわされた身だ。
今さら、些細な疼痛を感じたところで何ほどのものでもない。
逆らう気力も失って肉体の訴えを無視し、ただ男の為すがまま、その裸身を投げ出している。
ぷつり。ぷつり。
音とも呼べぬほどの空気の震えと潜めた息とが、重苦しく、室内に漂う。


どれだけ時間が経ったのか、施術に集中していた男が、ようやくに言葉を発した。
「ほら見て。高耶さん。すっかり綺麗になりましたよ。今はまだ赤く色づいているけれど、明日にはきっと磁器のような滑らかさ に戻るんでしょうね。楽しみだ」
そう言って、脱毛の刺激に痛々しいほど腫れあがった皮膚を舐めあげる。
「ぃっ……ぁ……!」
唾液が沁みる激痛に、高耶がかぼそい悲鳴をあげた。
「おや、声まで可愛らしくなりましたね。そんなに嬉しかった?じゃあ、ついでにこちらもしてあげましょうか」
覆い被さる男の重みがせりあがってくる。
無造作に手首を縛められ頭上に掲げられて、意図を察した高耶の顔から血の気が引いた。
哀願の眼差しには気がつかないふりで、直江は今度は、腋窩を撫でる。
緩慢な責苦がこれからさらに続くのだと悟って、ついに高耶の喉から苦鳴が漏れでる。
哀切に満ちた弱々しいすすり泣きは、深更まで途切れることはなかった。




つづく








ちょっとコレはアレだよね、と、剃毛シーンには後ろ向きな語らいを某さんとしていたはずなのに。
それが、剃るよりもっと痛そうな抜毛の話に育つのはナゼ???(←殴)
だってガソリン掛けてくださる方もいるんだもん(苦)

ここの直江ならやりかねんということで、しつこくキチク変態ネタです。ごめんなさい。
そして高耶さんの受難はまだ続きます。

直江さんにまだ夢を持っていたい方、引き返したほうがよろしいかと思います。m(__)m







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