終わりなき夜の押印 1

―L'ESTRO ARMONICI 2.5〜3.5―






直江は決して急がなかった。
丹念に高耶の身体を探っては弱みを見つけ出し極限まで彼の性感を昂めていく。
夜毎に続けられるその執拗な行為は、肉体的な痛みこそ伴わないものの潔癖な高耶の精神をいたぶる拷問に等しかった。
こうして心を挫き、欲望に従順な性奴に堕ちていくさまを見届ける。
焦らなくていい。
すでに、彼には一度、自分という男の印を刻みつけた。熟れた身体は、 いずれ、我が身を貫いた生身の楔を求めずにはいられなくなるだろう。
誇り高い彼が最後の矜持をかなぐり捨て、情けを乞うて自ら腰を振りたて泣き縋るまで。
彼の身体を遊び女のそれに変える過程を愉しみながら、直江は、高耶が己が軍門にくだるその瞬間をじっくりと待ち受けるつもりだった。



くちゅくちゅと淫猥な水音が静まり返った閨に響く。
時折、殺しきれぬ呻きがそれにまじる。そして、楽しげな含み笑いも。
膝立ちでうつ伏せさせた脚の間に陣取りながら、直江は、今日も高耶を苛んでいる。

使われる棒はこの数日のうちに何度か替えられ、すでに親指以上の太さ、所々に鶉の卵ほどの瘤を持つ醜悪なものになっている。
自らを犯すその道具を、まず最初に舐めさせられた。与えられた潤滑はそのわずかばかりの自身の唾液。それなのに受け入れることに慣らされた窄まりは、 巧みな挿入とあいまって、思う以上に易々と淫具を奥まで呑みこんでいく。
そのまま小刻みに快感点を抉られて背を撓らせ喘ぐ高耶に、直江が笑った。
「あなたの中……奥からどんどん蜜が溢れてきてる。自分でも感じるでしょう?今日は何も使ってあげていないのに、もうこんなにじくじくと滲ませて。 後ろは本来濡れない器官だと聞いていたんですが、あなたのココはどうやら特別誂えのようですね。嬉しいですよ、高耶さん」
愛撫さながら潜められる声。
思わせぶりに抜き差しされる性具。
そのたび繰り返し襞と瘤とが擦れあう火花のような刺激。
「ぁああ……っ」
狂ったように首を振りたて、高耶は懸命に湧き上がる快感に耐えるしかない。そんな仕草がさらに男を煽るとも知らずに。
「……以前言ったことは撤回します。確かに男と女ではその価値は違う。でも、私の故国にも好事家はいるんですよ。 こんなあなたを手に入れるためなら、彼らは競って金を私の前に積み上げるでしょうね。 この気性にこの容姿。名門の子弟に相応しい凛々しい外見を備えながら、一皮剥けば娼婦顔負けの淫蕩なカラダを隠し持っているなんてね。愛玩するにはもってこいだ。 ……どうです?いっそ私の故国に売られてみますか?」
「……!」
信じられないとばかりに目を見開いて、高耶が直江を窺った。
「きっと、私が北条に用立てた以上の値がつくでしょうね。 ふふっ、心配しないで。あなたを使って金儲けする気はありません。私はこれでも公正な仲介人なんです。原資と所定の手数料を差し引いたら、残りの金子は 妹さんにでも届けることにしますよ。それとも、高耶さんが持参金としてお持ちになる?もっとも、その頃のあなたは、閨で可愛らしく強請りさえすればどんな我儘贅沢もし放題の身分だ。 金なんて無用の長物かもしれませんね…」
慇懃無礼な嘲りに、さっと高耶の肌に朱が走った。たった今まで快楽に潤んだ瞳にともるのは憤怒の光。
そんな瞳に睨めつけられて、ぞくぞくと背筋が痺れる。
軛をかけられ鎖でがんじがらめに縛られているというのに、彼は、まだ隙あらばこちらの咽喉笛噛み砕こうと狙っているのだ。
美しい野生の魂、その彼の生殺与奪をこの手に握る、目の眩むような歪な至福。
「………でも今は。私の所有で私の玩具だ」
己が身の程を、知らしめるように彼に囁く。とたんに彼の瞳は力を失う。
のろのろと姿勢を戻し、再び顔をシーツに埋めた。 全身全霊で男を拒絶しながら、その身を好きに玩ばせるために。
やはり、彼は気づいてないのだ。
その相克を抱えた偽りの従順が、どれほど雄の嗜虐を誘うかを。
昏い笑みを浮かべ、彼にはゆったりとした抜き差しを施しながら、直江は残る片手で次の道具を探っていた。


「ほら。解る?高耶さん?お利巧なあなたのお口。もう二本目を呑み込みましたよ。本当に可愛い人だ」
変わらず響く濡れた水音に耳障りな破裂音が重なった。
恥かしいその音を耳にするたび、高耶は身も世もないように頭を打ち振り身体を震わせる。
潜り込んだ二本の棒がバラバラにかき混ぜられては、体内にはあり得ぬ空洞が作られる。 自然、後孔から器官へと入り込んだ空気は、本人の意思に係わりなく出口を求めて移動しては外へと逃げ出るのだ。 ぐぶぐぶと、聞くに堪えない音とともに。
男の目の前で粗相をするに等しい羞恥と腹部の不快な圧迫を、高耶はただ歯を食いしばってこらえている。
緊張のためにきつく絞られる窄まりを、無遠慮に男が開いた。交叉させた棒を梃子に裂く勢いで押し広げる。
歪んだ楕円の形に固定して、直江は、露わになった肉襞を覗き込んだ。
「……思ったとおりの綺麗な赤だ。濡れて光って、ふふ、もの欲しそうにひくひくしてる。……あなたに見せてあげられないのが残念ですよ。 そうだ。今度鏡を用意しましょうか。顔を隠してばかりいないで、一度自分の眼で確かめるといい。 あなたの持っているこの淫らな場所がどんなに美味しそうに玩具を咥えこむかをね」
シーツに押し付けたまま、いや、と、高耶が小さくかぶりを振る。
細かく震える腰に腕を絡め、埋め込んだ淫具を引き抜きざま、直江は、高耶の身体をひっくり返した。 強引に仰のけた顔は屈辱の涙に濡れている。 とっさに背けようとするのを許さず、彼の頤を鷲掴んだ。
「…この棒に絡んだあなたの蜜。どんな味がするのか俺に教えて」
骨を砕くほどに力をこめ、歯列を割らせて、下から抜いたばかりの性具を今度は彼の口腔に捻こんだ。
「いつもみたいにしゃぶってごらん。上手にできたらご褒美をあげる。あなたの坊やもイかせてあげますよ」
口調だけは優しげに命じる瞳には昏い炎が揺らめいている。
どうあってもこの男は自分を堕す気なのだと、高耶は苦鳴を飲みこんで、押し込まれた淫具の瘤に舌を這わせた。

性交を模した動きで男根めいた無骨な棒が傍若無人に唇を出入りする。それと同じリズムで、勃ちあがる自身の雄をも扱かれる。
下半身への巧みな愛撫が、喉彦を突かれてこみあげるえずきを別な快感ものへとすり替えていく。 否応なしに感じさせられるのは、自分が男でもあり女でもあるような二重の被虐。二重の惑乱。

いや、違う。
男でもなく女でもない玩具としての存在に作り変えられていくのだ。 果てない夜に、この身に数えきれぬほどの押印を刻まれて。 この男の、完全な所有物となるまで。

ままならない呼吸と切羽詰まった衝動に新たな涙を滲ませながら、高耶の思考はしだいに白く霞んでいった。




次へ







しつこく続くキチクもの。
某さま宅で拝見したあぶな絵三連発で、私もサカリにはいりました(笑)
流れは散華の続きなんですが、一応タイトル別立てで。
お道具(!)ごとの読みきりで、三篇ほど続いてます。
が、もしもご不快でしたらどうぞお戻りくださいますようお願い申し上げますm(__)m







BACK