冒頭のシーン、こすげさまが挿絵描いてくださいました〜♪
こすげさま、いつもいつもどうもありがとうございます。
くふふふ。同じツボで反応してくださるのは書き手冥利に尽きますです<(_ _)>

2006/9/28










Precious ―キッチンガーデン― 






「なあなあ、この葉っぱ、本当に食べられんの?」
そう言う高耶が手にしているのは、プランターから摘んで、洗ったばかりのナスタチウムのまるい葉っぱ。
子どもの手のひらほどの、蓮によく似たその葉柄を指先でくるくる回しながら、心配そうに見上げてくる。
そんな仕種がまるでお伽に出てくる小人のようで、つい口元に笑みが零れた。
「直江?」
そして、こちらの表情を覗き込む彼の顔には苛立ちの気配。さっさと質問に答えないと本当に機嫌を損ねてしまいそうだ。
「大丈夫。びりっとしていて美味しいですよ。母が何度も作ってましたから。味見も毒見も済んでます」
「ふ〜〜ん……」
自信満々断言したのに、まだ高耶は首を傾げている。
しまった。母の直接の言葉ならともかく、自分の弁ではいささか説得力に欠けるらしい。
「『論より証拠』、いや『案ずるより産むが易し』かな?とにかく食べてみましょう。ね?」
「うん」
気を取り直したように水気を拭う高耶の横で、直江は再び、慎重な手つきで、バゲットに切り込みを入れた。


今日のお昼はサンドイッチ。
父親が休日出勤で出かけてしまった日曜日、 なんとはなしにそんな話がまとまって、あれこれ具材を揃えるうちに、ふとベランダで育てているハーブのことを思いついた。
順調に丈を伸ばし葉を繁らせているから、そろそろ七八枚の葉をもらっても平気だろう。
そう思って高耶に声を掛けてみる。
が、高耶は直江の提案にぎょっとしたように固まってしまって、その反応に、逆に直江の方が慌ててしまった。
「ナスタチウムの葉っぱって食べられるの?」
なまじきれいな花が咲くものだから、すっかり観賞用の花だと思っていたらしい。
というか、それが普通か。と苦笑する。
母の春枝は時折野菜代わりに使っていて、自分たちはそれを当たり前に食べていたけれど。
高耶にとっては、それこそ驚天動地の新事実なのかもしれない。
「やっぱり止めておきますか?」
ところが、高耶はぶんぶんと首を振る。そして自ら進んでベランダに出ると、レタスともサラダ菜とも形の違う、およそ自分の見知っている野菜とはかけ離れたその葉っぱを、おそるおそると摘み取ったのだった。


つくったのはアコーディオンサンド、だった。

「だって美味しそうじゃん。パンとハムをこ〜〜んなに(と手振りつきで) 重ねてさ、おっきく口あけてぱくりとやるの。あれ、タテじゃ絶対無理だけど、横にだったらできると思うんだ」
昔観たアニメのワンシーンを瞳をきらきらさせながら語る高耶に、一も二もなく直江は首肯したから。

塩と胡椒をふって水気を拭いた薄切りのキュウリ。
塩と砂糖を振りかけて、やっぱり丁寧に水気を拭った輪切りのトマト。
玉子にハムにチーズ。レタス。そして、くだんのナスタチウム。
用意されたそれらを、それぞれが好きなだけ、好きな順番でパンの切り込みに挟んで仕上げていく。
出来上がったのは彩りも鮮やかな、大皿から端がはみ出すほど長い二本のサンドイッチ。
そのボリュームに直江はすこしたじろいだけど、高耶は得意満面、にこにこして「いただきます」と手を合わせた。


「ほんとだ。すごく美味しい!マスタードみたいな味がする」
ハムと一緒に挟んだ一切れを頬張りながら、高耶が笑った。
よかった。気にいってもらえたようだ。と、直江もほっと安堵する。
「焼肉なんかにもあいますよ。肉を巻いて食べるんです。……今度してみましょうか。その、お父さんも一緒のときに」
「うん!」
嬉しそうに頷いて、けれど、すぐに高耶は眉を顰めた。
「……でも、三人で葉っぱ食べちゃったら、ナスタチウム、まるはだかにして枯らしちゃうね。もう少し大きくなるまで待たないとダメかなあ?」
「……家からもっと株を分けてもらいましょうか。たくさん植えているはずだから」
「ほんと?いいの?」
「もちろん」
力強く直江は請け負う。きっと母だって大喜びだ。
直江の部屋のベランダに並んぶ、 ハーブの植え込まれたプランターは、何を隠そう、高耶のために春枝が用意したものだから。

パセリにバジル。ラディッシュ、チャイブ、ローズマリー。
すんなりと伸びた若葉が、涼しげに風にそよぐ。
高耶という使い手を得た小さなキッチンガーデンには、今日もすくすくと育ったハーブが自分の出番を待っている。





 




幼稚園の途中、二坪ほどの家庭菜園がありましていろんな野菜が育ってます。
隙間を埋めるようにナスタチウムがいっぱい!
赤とオレンジの花が「きれい」だけど同じくらい翠の葉っぱが「おいしそう…」と思いながら一夏横目で見つつ通ってました(笑)
「焼肉巻いて食べると美味しいよ」と伝授しながら苗も分けてくれたのは園芸師匠の某友人。
ハムと一緒にパンに挟む食べ方は「西の国の魔女」(?作者もタイトルもうろ覚えです。ごめんなさい)の文中で。
少々青臭いのが好みの分かれるところですが(ヒロインは挟んだ葉っぱを抜くんです)
それを言ったらパセリもバジルもトマトも青臭いんだよね…(擁護派)

小話その3追加しました。お茶目(?)な照兄復活です(笑)
ラディッシュのアイコンからどうぞ…<(_ _)>




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