羽衣
-9-




珠を握りしめたまま、高耶は昏々と眠り続けた。
別に具合が悪いわけではない。珠に気を分け与えるのにはそうするのが一番効果的なのを本能的に知っているのだろうと、 直江も無理に起こしたりせず、出来る限りの時間を割いてただ注意深く見守った。
彼が目覚めたのは二日後の午過ぎ。 夕食の時間には食堂に姿をみせて、それまで気を揉んでいた宿の面々をほっとさせた。
亭主自らがテーブルにスープの皿を運んできて、二人に向かい長々と愛想を振り撒く。 それがやけにまわりくどく要領を得ない話だったので亭主が下がった後もまだ意味が解らず首を傾げている高耶に、くすくす笑いながら直江が言った。
「何事もほどほどに、という忠告をくれたんですよ。二日もあなたが寝込んだのは私の所為だと思われているんです」
「!」
「私もあえて否定しませんでした。珠のことを言うわけにはいきませんから。 おかげですっかり悪者です」
「………ごめん」
心にもない嘆きを真に受けて、小さくなった高耶が謝る。
「そんなわけで、周りに納得してもらうためにもしばらくはあなたを存分にあまやかしますから。 高耶さんもそのつもりで、思いっきりちやほやされてくださいね」
「……………解った」
普段なら恥ずかしがりの高耶が承知しないことまでちゃっかり言質を取った直江は、食事の間中、おおっぴらに高耶の世話を焼いて周囲に見せつけたのだった。

その一方で、 龍珠の由来についてはなにも解らないままだった。
元々が行きずりの旅人のこと、 珠をもたらし高耶に託した子どもと両親が何処から来たのかどういう経緯で手にしたのか、高耶に語った以上のことまでは、亭主も聞き及んでいなかったのだ。
無理もないと思う。
それでも落胆を隠せない高耶のために、直江はちょっとしたプレゼントを用意していた。
龍珠に見合う台座のついた銀の鎖を、金銀細工師に誂えさせたのだ。
仕上げの作業は直江自ら行なった。
蔓草を象った繊細な爪で傷つけないよう珠を留め、 その出来上がったばかりのペンダントを高耶の頸に掛けてやる。
直接高耶の肌に触れることで、珠は一層艶を増したようだった。
「とてもよくお似合いです。それに、これなら装身具にしか見えないから隠す必要もない。 人目を気にせずに身につけていられますよ」
「ありがと」
嬉しそうに微笑む高耶の反応こそが直江にとっては何よりの褒美。
「……そうして力が戻ったら、やがて珠自身が出自を語ってくれるかもしれませんしね」
「うん」
胸元の龍珠を握りしめ、高耶は祈るように頭を垂れる。
「本当に、そうなればいいな……」
伏し目がちのまま呟いて。そして高耶は再び視線を上げた。
「直江」
真っ直ぐ自分に向けられる黒曜の瞳に浮かぶ、なんともいえず艶やかな表情いろ
「……大好き」
夢でしか聞けない言葉を花の口唇が紡いで、誘うようにゆっくりとその瞳が閉ざされていって。
直江は夢見心地で彼を抱き寄せ、唇に触れた。





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直江の逆襲・・・
ていうか、ウハウハじゃん(^^;)






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