微 睡
-9-





今日もよく晴れている。
竿ごしに見上げる空は抜けるような青い色をしていて、時折、風に乗って白い花びらが舞っている。
そろそろ桜花も終わりだな……。
なにしろ庭に出さえすれば必ず視界に入るのだ。 桜は毎年何処にいってもかならず見かけていたけれど、こんなに間近に眺めたことはなかった。
遠目には花盛りに見えてもここ数日で確実に花びらは散り、薄緑の若芽が枝先にのぞいている。 雨がに打たれたり強い風が吹いたりしたら本当に散りきってしまうだろう。
でも、同じ散るなら一面に舞う花吹雪をみたいと思う。
一陣の風に巻き上げられ白い花びらが一斉に蒼穹に吸い込まれていくさまはどんなにか見事だろう。
まなうらにその光景が浮かぶような気がした。
そうして桜花が終わってひととき寂しい思いをするけれど、すぐに季節は巡る。
一雨ごとに艶やかに緑を濃くしていく若葉もまた美しい。 その頃にはきっと田んぼの蛙も賑やかで。
やがて雨の時期が過ぎればすぐに燃え立つ夏がやってくる。
照り返しのきついあの道に、桜はひととき憩う木陰を提供してくれるだろう。もちろんこの庭にだってその恩恵はあるはずだ。 その木陰に座り込んで蝉の声を聞きながらそよぐ葉越しに見上げる陽射しも、眩くきらきら輝いているに違いない。

おっといけない。 夢想に浸ってつい手が止まってしまったと、高耶はまた洗濯物を干す作業を続ける。
いつも何かしらの用事や時間に追われていたから、こんなふうに家事の途中にぼんやりすることも今まではほとんどなかった。
けれど、此処は都会じゃないし自分も休暇中だ。いや、一応バイト中ではあるわけだけど、その雇い主からしてのんびりした田舎のリズムを愉しんでいる。
そして自分はともかく直江の方は少々問題なんじゃないかと、密かに危惧したりもしている。 毎日蔵には行くというのに、肝心の片付けがはかどっているようには見えないのだ。 残る休みはあと半分。こんな調子で本当に人手に任せられるほど整理がつくのだろうか。
いっそ自分も一緒に蔵にこもってがっちり手伝いをと思わないでもないが、そうすると請け負っている家事に支障がでるのが悩ましい。
高耶の用意する三度三度の食事とお茶の時間とを直江はとても楽しみにしていて、 そうして期待されているとまたつい高耶のほうも頑張って食卓に手間暇掛けたレパートリーを並べたりしているのだ。
今さら、夕飯はレトルトカレーですませようなんて、言えないよなあ……。
ここ数日の奮闘ぶりが逆に自分の首を絞めていると、高耶は知らずため息をつく。
手抜きしたってたぶん直江は文句は言わない。言わないけれど内心がっかりさせるのは必定で。そして自分は直江にそんな思いをさせたくはないのだ。
なんか、どつぼにはまった感じ?でも本当に切羽詰ったら直江の方でも何か言ってくるだろうし。それまでは様子見だろうなあ。
うららかな春の陽射しを浴びながら、高耶はまたひとつため息をついた。




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閑話休題
参観日で訪ねた教室の壁に徒然草の序段が張ってありました
…ひぐらし硯にむかいて心にうつりゆくよしなしごとを…云々
これってまるっきり今の私状態??とあらためて再認識しました。。。(^^;)

ふっふっふ。いくら暗誦できたとしても、ガキンチョにこの境地は解るまい(おい)






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