それから程なく運ばれてきたプリンには、食べやすく皮を剥いた果物がきれいに盛り付けられていた。 イチジクの薄紅やキウイによく似たサルナシの淡い緑。添えられた胡麻ペーストの照りのある漆黒と玉子色のプリン。 イチゴやメロンの華やかさでこそないものの、繊細な彩りが皿一面に散りばめられている。 早速、いただきますと手を合わせて口に運ぶ。 「おいしい……」 プリンの優しいあまさ。カラメルのほろ苦さ。爽やかな風味と酸味を持つ果物とこってり濃厚な胡麻のソース。 それぞれに美味しいものがさらに互いの持ち味を引き立てあって、何より、そこに込められた作り手の慈愛やモリの恵みが身体に染み渡るような気がした。 「すごく、美味しい」 最後の一匙の余韻をじっくり味わうように目を瞑った。 「褒めるわりには浮かない顔だな。なにか苦手なもんでも入ったか?」 傍らでちゃっかり自分も相伴していた千秋が何気なく訊いてくる、それが呼び水となった。 「ううん。どれもみんなすごく美味しかった。だから、なんで美味しいのかな?って。 幽霊とかゾンビみたいな身体でも味覚ってあるんだなって、ちょっと不思議だったんだ。だって、オレ、ほんとはもう死んじゃってるんだろ?」 居住いを正し、いきなり核心を衝いてきた高耶を、千秋はスプーンを咥えたまま、まじまじと見つめる。 (まったく。たまんねぇな) 今、目の前にいるのは、覚悟を決めた深い眼差しで真っ直ぐに見つめてくる大人びた一人の少年。 ついさっきまで自分の戯言に頬赤らめ他愛なくプリンに喜んでいた子どもは、こんな一面も秘めていたのだ。 まるで万華鏡を覗くように、この高耶という魂は見る度ごとに様々に印象を変え、観る者を惹きつけて已まない。 (奴が夢中になるわけだ……) 感嘆しながらも、千秋は内心で盛大にぼやく。 (経緯の説明は直江に任せるつもりでいたのによ。いきなりこんな直球投げられちゃ、はぐらかすわけにもいかねえじゃねえか。とんでもねぇ貧乏くじだ) がしがし頭を掻きながら、ためいきをひとつ。やがて、千秋は窺うような鋭い視線を高耶に向けた。 「ぶっちゃけた話、なんでおまえはそう思う?身体に違和感でも残ったか?」 根拠を示せと言外の問い掛けに、高耶が応じる。 「声が……聴こえた。モリの声が」 「モリの声?」 片眉をあげる千秋の表情に、考え考え、さらに続けた。 「最初は夢だからだと思ってた。昔から聴いていた風の音だから、夢の中で自分で勝手に意味をつけたんだろうって。 でも、違った。目が覚めても、なんていうか、モリの想いが伝わってきた。だから、解ったんだ。オレもモリと同じ。もうヒトではなくなったんだって……」 「あいつらか……。ていうか、あの時か……」 実際にその場に居合わせてもいた千秋が、がっくりと項垂れる。 モリのざわめきは、自分にはあまりにも聞き慣れすぎた鳥のさえずりのようなものだったから、うっかりしていた。 高耶までその真意を解するとは思いもよらなかったし、更に言えば、早く季節はずれの走りの果物を見せて驚かせたくて、気持ちが浮き足立っていた。だから見過ごしてしまったのだ。 道理であの時、こいつは妙に沈んだ顔をしていたわけだと今さらながらに納得し、改めて高耶の勘のよさに舌を巻く。 (こいつは自力で答を組み立てて思い詰めてたってわけか……) ちらりと見上げた高耶は道に迷った子どものような顔をしていた。きっと、黙り込んでしまった自分の反応が不安で仕方がないのだ。 放って置いたら、またどんどん悪い方向に煮詰まっていくに違いない。 (この貸しは高くつくからな。覚悟しやがれ、直江) 深く息を吐き、心のうちでもう何度目になるか解らない悪態をついて、千秋もまた姿勢を正す。 そして真剣な面持ちで高耶に向き直った。 「いいか。結論から先に言うぞ。おまえはまだ死んじゃいないし、ヒトかヒトでないかの二択で選べば立派に人間のくくりに入っている。 仮にどんな医療機関でどれほどの精密検査を受けたとしても、おまえの身体にはなんの異常も認められんはずだ」 |