日暮れまでそうして倉に詰め、それから今までそうしていたように、縁側に場所を移した。 そこで刀自の心づくしを二人で頂く。ただし、ここ数日と違ってかなりしんみりした夕餉だった。 すっかりしおれてしまった高耶を目の当たりにして、人ならぬ身の翁の方がため息をつく。 「のう、主殿。そこまで別れを惜しんでくださるのはたいそう冥加なことじゃが、死んだ年寄りがいつまでも出張るまでもない。 なにより、主殿には、あれがおりますじゃろ。どうぞ、仲睦まじくお過ごしくだされ」 意味深にも取れる言葉に何を思ったか、高耶がはっと顔を上げ、すぐに視線を逸らしてしまう。 そんな仕草に翁がゆったり微笑んだ。 「しのぶれどいろにでにけり。昔の人はよくぞ例えたものじゃ。 が、本当のところ、主殿はあれのことをどう思っていなさるのかな?どうかこの爺にお聞かせくださらんか」 もしも同じ台詞を友人たちから言われたのなら意地でも強がってみせただろう。 けれど、翁の声はすとんと心に響いてきて。しばらく落ち着きなく視線を彷徨わせていた高耶は、やがて観念したように呟いた。 「……それが、よく解んなくて」 だから、自分でも困ってると。途方に暮れた子どもみたいに。 直江といると楽しくて、心地よくて。 知り合ってからこっち高耶の中でどんどん存在は大きくなっていって、気がつけば、とてもとても大切な友人になっていて。 でも、それが少し怖くなったと、高耶は正直に告げた。 このままだと自分はどんどん直江に依存していって、自分も直江も駄目にしてしまうのじゃないかと。 現に、たった一週逢えないだけで砂を噛むような思いをしたのは、ついこの間のことだ。 理吉が現れてくれなかったら、きっと今もその思いを引きずって鬱々としていたに違いないと思う。 あの時はまだ見栄を張れた。直江の体面や都合を優先することができた。 でも、次は? もうあんな思いはしたくないとばかりに直江に縋ってしまうのではないだろうか。 それが高耶の希ならば、おそらく直江はどんな無理でも笑って許してくれるだろうけど、 そうして彼の生活を侵食していくような自分を、きっと自分は許せない。 直江は優しいから。いつも高耶のことを一番に考えてくれるから。 だからこそ、甘やかされてただ嬉しがってちゃいけない。自分がどこかで線を引いて直江のことを守らないと――― ぽつり、ぽつりと、高耶は胸のうちを曝していった。 もとより自分でもどうにもならない堂々巡りだ。 行き詰まってやがて黙り込んでしまった高耶の気を引くように、理吉翁はこほんとひとつ咳払いをする。 それから、おもむろに切り出した。 「ひとつよろしいか。主殿。そのような心持ちを世間では恋心と呼ぶのではないかな。 そして、賭けてもいいが甥孫もまさに主殿と同じ心持ち。つまりは相愛ということだと思いますがな」 「!!!」 見る見る真っ赤になった高耶だった。 |