一直線の田んぼ道、赤く輝くテールランプが見えなくなるまで、高耶はその場に佇んでいた。 ふと見上げれば満天の星空。まだ夜明けには遠い。 たった数分の会話、たった数時間の仮眠のために、あの男はわざわざ此処へやって来て、そしてまたこんな時間に帰っていくのだ。何百キロの距離をものともせずに。 知らず、ため息が出た。 「バッカみてえ……」 常識では考えられない莫迦げた行為。少しは身体のことも考えろと叱り飛ばして当然だけれど。 でも、言えなかった。 目が覚めて、視線があったときの直江の表情。まるで悪さがばれた子どもみたいな顔をしていた。 そしてさっきも。 別れ際、覚悟を決めたように自分から謝ろうとしていた。 彼だって、これが愚行だと承知しているのだ。 それなのに、彼は此処にやって来た。 いつもいつも冷静でそつなく振舞う大人の男だと思っていた直江が、熱に浮かされたように高耶の許に。 「ホント、バカ……」 もう疑いようもない。あの男は自分に恋しているのだ。 理吉の指摘した通りだった。 男同士だとか釣り合いが取れないとか、今まで自分が並べていた言い訳全てを蹴散らす勢いで、 直江は自分に恋焦がれている。 それが、はっきりと解った。 ならば、自分も。 理吉の言葉を思い出して、できるだけ素直に思いを口にした。 逢えなくて寂しかったこと。来てくれて嬉しかったこと。でもやっぱり無茶させるのはすごく心配だからなるべく自重してほしいこと。 矛盾する本音を他人に吐くのはやはり照れ臭くて顔から火を噴く思いがしたけれど、直江は真摯に聞いてくれた。 いつもの高耶らしからぬ物言いに、最初、驚きに目を瞠っていた顔がどんどん引き締まっていく。最後に確約を返されて、ああこれで大丈夫だと安堵した。 この男は言霊を違えないから。 きっと無事に帰りついて、夜明け前から始まったこの長い一日を乗り切るだろう。 後でメールを打とう、と思った。 おにぎりはちゃんと食べてくれたかとか、始業には間に合ったか?とか。 そんな他愛ないことでいい。 たった十数分しかいられなかった今日の埋め合わせに。 この家で直江が隣にいたら話しかけていたようなことを、そのまま文字にして送ってしまおう。何回でも、何十回でも。 そう思った。 |