相変わらずの夏日は続いている。 八月も半ばに掛かろうかという今が暑さのピーク、昼の陽射しは凶悪でも、 幾分、日暮れが早くなったことに気づくのは、此処が街中でない一軒家だからだろうか。 なんとなく手持ち無沙汰な夕暮れ時、団扇片手に縁側に座り込んで、ぼんやり思う。 盆と重なるこの週末は来られないかもしれないと、無念そうに直江が告げたのは、先週の別れ際だった。 毎年のこの時期は実家の手伝いに駆りだされるのが恒例で、談判虚しく今年も役目から逃れられそうにないと。 まるでこの世の終わりみたいに思いつめた顔で実は…などと言い始めるから、いったい何事かと身構えて 聞いた高耶は、語られるその内容にひどく拍子抜けしてしまった。 「へえ、そうなんだ。人手が足りないんじゃ仕方ないよな。別にオレは構わないから、頑張って手伝ってくれば?」 ぶっきらぼうに返した応えは、至極まともな常套句。 なのに、直江は一瞬傷ついたような瞳をして高耶を見つめ、 すぐにいつもの慇懃な態度で辞して行った。 あの表情が頭から離れない。 まるで置き去りにされる犬みたいだった……とは、非礼に過ぎる喩えだけれど。 それが偽らざる感想だった。 ひょっとしたら直江は別な反応を期待していたのかもしれないと、後になって思い至った。 例えば高耶の気落ちする様子とか、引き止める素振りとか。或いはたった一言、寂しいとでも言いさえ すれば、どんな犠牲を払っても直江は無理を通す気でいたのではないだろうかと。 「だって、しょうがないじゃん」 居たたまれなさを断ち切るようについ独り言が口をつく。 駄々っ子じゃあるまいし、他にどんな言いようがあった? それは嫌だと、手伝いを放り出してもこっちに来いなんて、口が裂けても言えやしない。 自分の気持ちに蓋をして、義務を果たせとにこやかに送り出すのがオトナの対応というものだろう。 だから、自分は決して間違っていたわけではないのだ。 なのに、いくらそう理屈を重ねて自分を正当化してみても、落ち込む心は浮上しない。 気がつけば身のない堂々巡りを繰り返し、今もこうしてただ徒に空を眺めて過ごしている。 「なんだかなあ…」 ため息がでた。 確かに直江のいない週末はつまらないし味気ない。でもそれ以上に、 直江にあんな顔をさせてしまったことの方が心苦しくてたまらない。 「……どうしちまったんだろ、オレ」 何をする気にもなれず張り合いのない一日が、のろのろと終わろうとしている―――そんな夕間暮れだった。 |