見上げる空はまだまだ昼の色で、でも傾いた光は黄金色を帯びていてその柔らかな色味でもって辺りの風景を優しい印象へと変えていく―――そんな頃合い。 何処からか香ばしい焚き火の匂いが漂ってきて、高耶はくんと鼻をうごめかす。 人恋しくて仕方がないのは、そんな時間帯でもある所為だ―――と、無理やりにでも自分を納得させようとした折りも折、表に人の声がした。隣の家の中学生の声だった。 独り滞在する高耶を何かと気に掛けていてくれるその家の刀自から、おすそ分けが届いたのだった。 「これ、ばあちゃんが持っていけって」 差し出されたのは、数種類のだんごの盛り付けられたタッパーウェア。 小豆は言うに及ばず、枝豆を潰したずんだや醤油、ゴマ、クルミ。いささか無骨にまるめられた白玉だんごが取り取りの餡とあえられてアルミのカップに小分けされている。 今までの差し入れがそうであったように、家庭で手作りされたのが一目で知れる品だった。 「だんごなんて珍しくもないし、かえって迷惑なんじゃね?って言ったんだけど、ばあちゃん聞かなくてさ。仰木さん、あまいもん平気?大丈夫っすか?」 手渡されたタッパーをまじまじ見つめる高耶の心中を取り違えてか、心配そうに訊いてくるのに慌てて顔を上げた。 「もちろん!サンキュ。喜んで頂くよ。おばあちゃんとおかあさんにも御礼言ってくれる?」 「解った。んじゃあ」 ひらりと身を翻す彼からも、微かに焚き火の匂いがした。 ああ、そうか。迎え火を焚いていたのだと、ようやく高耶は気がついた。 今日は盆の入り、帰ってくるご先祖さまを迎える日だ。このだんごもそのために作られたのだと。 「初盆……なんだよな」 この家には位牌もないし、高耶には盆棚の祀り方も解らない。 そして今頃は相続人である直江が一切合財取り仕切ってきちんと供養しているはずだけど。 此処に住んでいた老人に自分も手を合わせたいと、心から思った。 |