縁側の定位置に置いた盆の上に、だんごの小皿とお茶と水。庭から摘んだ季節の花。 先日刈って軒下に積み上げていた枝の束がいい感じに乾いていて、火を燃やすのにはうってつけだった。 マッチを近づければ、たちまちめらめらと燃え上がるオレンジ色の炎の舌。白く燻りだす煙。懐かしいような匂い。 立ち上るその煙につられて視線を上げれば、青かった空はいつのまにか薄闇に包まれていて、 あれほど間延びして思えた夕刻が嘘のよう。 賑やかに爆ぜる音とともに明るく燃え盛る炎を、傍らで番をしながら高耶は眺める。 少しばかりの焚きつけが燃えつきて炎が勢いを失うまで、ただ無心に。 最後までちらちらと明滅していた熾火もやがて消え果て、辺りの闇がいっそう深まる。 そのときになって、ようやく高耶は庭の片隅、座敷から洩れる光のぎりぎり外側に佇む人影に気がついた。 不思議と怖くはなかった。それが生身の人間ではないと察しても。 じっと見つめる高耶に、その人は腰を屈めとても丁重な礼を送った。 「はじめておめもじつかまつります。主殿。人ならぬ身になってようやく宿願が叶いましたわい」 陰の中にもかかわらず、晴れ晴れと語る表情がはっきりと解った。遺影で見知った直江の大叔父その人の顔だった。 盆の最中とはいえ、この世のものではないものに遭遇したのだ。普通なら動転したり怯えたりするだろうに、 高耶は違った。怯える以前に、 自分に為された呼びかけの文言が引っかかってそこまで気が回らなかったのだ。 「ヌシドノって?オレのこと??」 きょとんと首を傾げ、自分で自分を指差す子どものような仕草が、老人を微笑ませた。 「おお、お気づきではなかったか。確かに今のあなたさまは人の子の身。膨大な記憶を封じねば到底器に納まりきれませんな」 独り得心したように呟くが、その言葉だって高耶には意味不明だ。 不審を顔に貼り付けたままの高耶に、老人はまた深く一礼した。 「僭越ながら、主殿と我らとの係わりをこの爺が語らせて頂いてよろしいか?」 もちろん願ってもないことだ。 高耶はこくこく頷いて話の続きを促した。 |