夏休み
-8-





言われるままに、ぎくしゃく動いて自分の分も縁側に用意する。
とてもとてもモノ食うどころではなったはずなのに、お愛想のつもりで口にしたそのだんごはとても美味しかった。
たちまち自分の皿を空にする。
と、高耶の健啖ぶりをにこにこ見ていた翁が、すっと盆の上の小皿を押しやる仕草をみせた。
「こちらもどうぞ」
「え、いや、そんな」
それは翁のためのお供え分だ。そこまで手を出すのはさもしいようで気が引ける。
慌てて手を振って遠慮する高耶に、理吉翁はなおも問いかけた。
「うまいだんごでしたじゃろ?」
「はい。すごく!」
「このずんだは、キミさんちの畑で採れた枝豆を茹でて潰してこしらえたもんじゃ。……と口で言うのは簡単ですがの。 莢から豆をはじくのも豆一粒一粒薄皮を剥くのにもえらい手間がかかっとる。 まあ、潰すのだけは今はすり鉢代わりの便利な機械があるからと多少ラクになったようだが。クルミもそう。裏山で拾ったものを使っとるし、 あんこも豆から炊いたもんですじゃろ。
さて、主殿。儂は御覧の通りの死人の身ですじゃ。供えてくださるその心持ちを嬉しく思いありがたいと思い、まあ多少の香気を味わえたとしても、 最早その供物を食べて血肉にすることはできん。あたら腐らせてしまうだけじゃ。生身のあなたさまが代わりに食してくださらん限りは。 ……それでも遠慮すると申されるか?」
完敗だった。
「……いただきます」
おずおずと手を伸ばし、翁の言葉を反芻しながら、じっくりと咀嚼する。
風味豊かな餡をまとったやわらかな白玉だんごは、やはりとても美味しかった。
胃の腑のあたりからじんわり満ち足りた気分が広がっていく。 自分は今までものすごく空腹だったのだと、ようやく気づいた。
もし、目の前の老人が相伴云々と言い出さなければ、そのまま食事するのも忘れていただろうことも。
「ご馳走さまでした。それと、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。
「いやなにこちらこそ。ありがたく頂戴いたしました。キミさんにも礼を言っておいてくだされ」
そう翁も礼を返したが、すぐに一言付け加える。
「もっとも、本当に儂が現れたと馬鹿正直に話すのはちいっとまずいかもしれん。そこのところは適当にな」
そのくだけた物言いが可笑しくて、高耶も笑いを含んで問い返す。
「適当に……ですか?」
「そう、適当にじゃ」
声まで潜めたやりとりは、まるで悪戯っ子が二人、秘密の相談をしているよう。
なんだか無性に楽しくなってしまって、瞳煌かせ、了解と、力強く請け負った。



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なんか……直江さんより親密度高いよね〜〜(笑)
とりあえず、高耶さん夕飯食いっぱぐれなくてよかったよかったvv




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