はじめに


先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。

以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。











Precious ―スクールデイズ 2―




二月の合格発表から始まり、卒業、入学と続く喜ばしくも慌しい寿ぎの季節。
が、それに伴う学校の緒手続きや説明会はたいてい平日の午後に設定される。どうしても予定のあわない仰木に代わり、 直江も少々父兄の真似事をすることになった。
ただし、校内に付き添うのに良くも悪くも若輩の身が周囲から浮くのは必定で、なにかと物騒な昨今、問い質された場合の答えが『近所の知り合い』だけではいかにも不審である。
ここはひとつ嘘も方便、『親戚』ということにしてもらえまいか?
頼む側と頼まれる側、どちらからともなく思惑は一致して、年齢と風貌を考慮した結果、 仰木と直江が母方の従兄弟同士、その子である高耶とはひと回りした叔父と甥という口裏合わせが出来上がった。
いわば父親公認の後見人、錦の御旗を戴いた気分で直江は内心快哉を叫んだが、喜んだのは当人だけにとどまらなかった。

「義明が従弟なら俺とも従兄でつまりはおじちゃんなわけだな」
照弘がにやりと笑えば
「私とも従弟なんだからうちのマミと高耶くんはハトコ同士になるのねえ。マミちゃん、大きくなったら高耶おにいちゃんといっぱい遊んでもらおうね」
と、冴子が膝の上の娘をあやす。
「私はおばちゃんじゃなくて大伯母ちゃんね、ふふふ、気をつけないと舌を噛みそう」
そう、春枝はたおやかに微笑んで、 万一照会されたときの用心にと実家にもその経緯を説明した電話口、たまたま茶の間に居合わせた橘家の人たちは末弟の身分詐称をたしなめるどころか、逆におおいに盛り上がったのだった。

こうして家族ぐるみの付き合いはますます親密の度をあげて、学校生活を送る高耶の心強い援軍となったのである。



新しい学校の制服は学生服だった。
会場で採寸をし試着もして、勧められるまま少し大きめに仕上げてもらったそれが家に届いた日、 請うようにして、さっそく着てみてもらった。
真新しい白いカラーの覗く黒の学生服は、高耶の顔によく映えて、 その初々しさに直江は眼を細めたけれど、当の高耶はちらりと姿見に眼をやって、はあとため息をつく。
「……あんまり、かっこよくない」
「どうして?とてもよく似合っているのに」
「……袖だって、こんなにぶかぶかだし」
なるほどまっすぐおろした袖口は、掌を半分ほど覆い隠している。大丈夫と言いかけて、
「……直江のはすごくかっこよかったのに」
そう、続いた言葉に息を呑んだ。
「私?」
「うん。直江の高校の時の制服。オレ、ずっと、いいなって思ってて。今度のガッコは学生服だっていうから、結構楽しみにしてたのに。 見るのと着るのとじゃ大違いだ…」
がっかりしたような高耶の声。その表情に、遠い昔の姿が重なった。
ランドセルを背負った小さな高耶とあの頃の自分。
まだまだひよっこで、当時の浅はかな振る舞いは、思い出すだけで冷や汗がにじむけれど。
それでも高耶には、充分、大人びてみえたのだろうか。憬れを持ち続けてくれるぐらいに。
嬉しくてくすぐったくて、柄にもなく頬が赤らむ。
もっとも思わず本音を漏らしてしまった高耶も気恥ずかしいのは同じだったらしく、見る間に真っ赤になって俯いたから、こちらの赤面に気づいてはいないだろう。
ひとつ、深呼吸をして落ち着いてから、先ほど言いかけた言葉を彼に告げた。
「大丈夫。すぐにぴったりになりますよ。高耶さんは今が伸び盛りなんだから」
「……本当にそう思う?」
「ええ」
上目遣いの眼差しに、精一杯の威厳を込めて断言する。

直江の予言通り、学生服が高耶の体に馴染むのに、さほど時間はかからなかった。
すぐに六月がやってきて、制服は、まばゆい白の半袖シャツになる。
その夏も瞬く間に過ぎ去って再び冬服に戻る頃には、もう高耶も袖丈の長さを気にしなくなっていた。

そんなふうに一年が過ぎる頃、再び仰木の転勤が内示され、次の春から、高耶はいよいよ直江の部屋に身を寄せることとなったのだった。






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閑話休題・・・・・・いやそれ以外言いようが・・・・・・(苦笑)








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