はじめに


先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。

以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。






Precious ―スクールデイズ 3―




本人は自覚していないが高耶はたいそう人目を惹きつけるところのある少年だ、と直江は思っている。
それが直江の贔屓目でなく客観的事実であるのは、その後高耶に降りかかる、あれやこれやの騒動が証明しているのだが、 とりあえず、今はあちこちの部から掛かる入部の誘いを断るのに四苦八苦しているようだった。
この一年、家庭の事情を優先させて彼はとうとうどこにも所属しないままやり過していたけれど、 また新たな年度を迎え希望に燃える新学期、即戦力を求めるそれぞれのクラブの部員勧誘も入学当初のそれよりさらに激化しているらしい。

「オレ、応援委員になった」
静観していた直江に、こんな報告があったのは、四月半ばの夕飯時のことだった。
「部活がダメならせめて生徒会に貢献しろって脅されて、仕方なく」
ぼそりと呟く高耶に、脅されたとは穏やかでないなと、 直江はこっそり苦笑する。
そんな言い回しが彼流の照れ隠しなのだと知っているから。
本当に嫌なことなら、高耶はきっと断固として拒絶する。そうしなかったのは、その活動に少しでも心惹かれるところがあったか、それとも、よほど上手く 話を誘導されたかだ。
彼はとても情に厚いから、居丈高な強要は撥ねつけられても、陽光にくるみとられるような懐柔には太刀打ちできない。 高耶を『脅した』というその人物は彼の性格をよく飲み込んだ策士であるに違いない。

「応援委員って、応援団みたいなものですか?」
もしも自分のイメージする応援団のようなものだったら、なるほど高耶には適役だ、と思う。人をまとめ上げ熱狂に導く、そんな度量と華やぎが彼にはあるから。
「うん。原則クラスから一名選出されるんだけど。うちの組、女の子が名乗りを上げてて。……それで済んだと思ってたのに、やっぱり遊軍でオトコもいたほうがいいとかなんとか、譲のやつが」
初めて聞く名に破顔した。おそらくは、その『彼』だって、自分と同じことを考えたのだ。
「譲さんっていうんですか?そのお友達は」
「うん。今度一緒になったヤツ。委員長をしてるんだ。かわいい顔してるくせにやることはけっこうアザトイかも」
眉をしかめて唇を尖らせてそんなことを言うのだからたまらない。 緩みっぱなしになる頬を懸命に引き締めて、何気なさを装った。
「……仲良し、なんですね」
「まあ、否定はしないけどさ……」
笑いを含んだ声で言われて、困ったように高耶がため息をついて。 その物言い一つで、彼がどれほどその相手を信頼してるかが知れる。
そんな気心の知れた友人が彼の傍にいる。彼の過している学校での様子が垣間見えた気がして、嬉しくてならなかった。

「んで、明日からさっそく早朝と放課後の練習。……家のこと、雑になるかもしれないけどちょっとだけゴメンな」
急に改まって手を合わせるから、直江もあらためてかぶりを振る。
「そんなの気にしなくていいんですよ。そもそもあなたは家政婦さんじゃないんだから」
「でも……」
「下宿代も食費も光熱費もきちんとお父さんからいただいているんですから。あなただけが家事を負担することはない。 まずは、本分の学校のことを一番に考えてくださいね」
それは、高耶を預かるに当たって仰木と交わした取り決めのうちのひとつだった。もちろん直江は固辞したのだが、押し切られる格好で幾ばくかの部屋代と折半された生活費が毎月振り込まれることになっている。
それでも高耶は当然のように家事全般を引き受けようとするから、直江としても一度、きっちり念押ししておきたいことでもあった。
畳み掛けるような口調に気圧されたか、高耶が小さく頷いて、そしてこの話はおしまいになった。


さて、高耶が忙しくなってそれで生活が荒れたかというと、全然そんなことはなく。
でもそれは直江自身の踏ん張りというよりは、頼みもしないうちからやってくる『猫の手』のおかげだった。

「本当に直江って愛されてるのな。末っ子だから?」
実家から送られたクール便の箱を開けながら高耶が感心したように言うから、ため息混じりに直江が返す。
「半分以上は高耶さんのためという気もしますが」
日持ちのするお惣菜のほかにカリンのシロップや煮汁たっぷりの黒豆やのど飴が入っているのは、連日喉を酷使している高耶を思いやってのことだろう。
定期に入れる連絡でうっかり口を滑らせたのが一昨日のこと、根掘り葉掘りと春枝に事情を訊きだされて、その結果が今日の宅配便である。
余計なお世話という気がしないではないのだが、 それでもさっそくシロップを口にして、おいしいと顔綻ばせる高耶を見れば、もはや愚痴るわけにもいかず。
高耶ともども御礼の電話をして、ありがたく厚意を受け取ったのだった。
そしてもちろん、その電話を免罪符に定期的に差し入れが続いたのは言うまでもない。


やがて迎えた中総体。
各部の選手はもちろんのこと高耶にとっても晴れがましい初陣であるその大会を、あいにく直江は観戦にはいけなかったけれど(会場の都合で、生徒以外はお断わりだったのだ) 自校の活躍ぶりを一喜一憂しながら話す彼の仕草に、充分報われる気もした。


高耶の応援ぶりを見てみたい。
そんな淡い願いが思いがけなく叶ったのは、夏休み前に催された運動会でのことだった。






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一週間かかってこれだけかい…(ーー;)(←ひとりつっこみ)
実は運動会風景も一度は書いてはみたのですが、橘さんたちが黙ってなくて(苦笑)
いったん切って、もう少し整理します。

みなさま、よいクリスマスをm(__)m







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