先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―スクールデイズ 8―
翌日。 意を決して高耶は高等部の教室へと向った。 百歩譲ってスカートまではよしとしよう。でもそれ以上変態チックなあれやこれやのオプションは御免だ。 そんな高耶の主張を、 拍子抜けするほどあっさりと綾子は了解してくれた。 「……少し丸みがあった方が可愛いんだけど。まあね。年頃の男の子だもの、ブラジャーに抵抗あって当たり前かもね。 じゃあ、胸はぺったんこのままってことで、ドレス作るわ。 ……ついでに確認したいんだけど。ストッキングは大丈夫?」 「?」 「知らなくても無理ないか。要するにスカートの下に白いタイツを穿いてほしいの。 タイツが窮屈なら、腿までの長い靴下みたいなタイプをガーターベルトで吊るという手もあるんだけど……やっぱりダメみたいね」 最後まで聞かず、必死の形相でぶんぶんと首を振る高耶に苦笑して、綾子は次なる案を持ち出した。 「じゃね、今穿いているような普通のスクールソックス、それを三つ折りにするというのはどうかしら? ただ、膝下から踝ぐらいまで見える部分の脛の無駄毛は剃ってもらわなきゃないんだけど……。 どう?これは我慢できる?」 「……まあ、それぐらいなら」 まだ許容範囲かもしれない。また短パンを穿く季節までには元に戻るだろうし、少なくとも 長靴下やタイツを身につけるよりは数倍マシだ。 しばらく考え込んだのち頷くと、さらに畳み掛けられた。 「靴のサイズ、高耶くんは何センチ?」 「25……ですけど」 「そのサイズなら靴もヒールのある女物が用意できるわ。でも」 げげげっと内心すくみあがる高耶に、綾子は思わせぶりな一瞥を投げかける。 「一日立ち仕事をするんだから足元は見映えより履き心地を優先させなきゃね。ドレスの共布で室内履き作るから、それで構わないかしら?」 「………オネガイシマス」 この相手に駆け引きなんて十年早いかもしれない。張り合う気力も失せて、早々に白旗を掲げた。 「ヒールのある靴なんて、オレ、絶対こけると思うし。スカートはいたまんま転ぶなんてヤだし」 思わず口をついた高耶の本音に、綾子がこらえきれぬように声をあげて笑う。 「あ〜〜、もう、可愛い!なんて可愛いのかしら。この子ってばっ!!」 「か、門脇さんっっっ!?」 打ち合わせしてた机越し、身を乗り出してぎゅっと抱きしめてきたからたまらない。 ふわりとしたあまい匂いと柔らかな感触に 真っ赤になってじたばたと身じろぐ高耶の頭をさらにぐりぐりと撫でまわしてから、綾子はようやく椅子にもどってくれたのだが、 高耶はすでに全身の毛を逆立てた猫の気分である。 ぜいぜいと肩を上下させている高耶の荒い呼吸が落ち着くのを、頬杖ついた姿勢でにこにこ眺めていた綾子だが、やがてとどめの台詞を放った。 「ところでさ、仰木高耶くん?そろそろその門脇さんって他人行儀な呼び方やめようよ。あたしたち、たった今、熱い抱擁交わしあった仲じゃない」 (ちがう〜〜!!) 心の中、絶叫した高耶だった。 「それで?」 「綾子でいいっていわれたけど。どうしても言えなくて。『ねーさん』で妥協してもらった」 「そして彼女は?やっぱり『たかや』って呼び捨てですか?」 ひくひくとこめかみが波打つのはまあこの際仕方ないかもしれない。 (おのれ、ぽっと出の新参女の分際でよくも私の高耶さんを!!) そんな憤怒を無理やり理性で押さえ込んで、努めて冷静に、直江は、高耶から一部始終を聞いている。 この問いかけに、クッションを抱えソファにうずまるように座っていた高耶は、直江を見上げすぐに目を逸らして小さく呟いた。 「……カゲトラ」 「は?」 「昔、ねーさんちで飼ってたネコの名前なんだって。なんか知らないけどオレにそっくりだそう呼んでいいかって、ねーさん一人で受けまくってて。もう、参った……」 最後の一言が言葉のアヤなどではない掛け値なしの本心だというのは、彼を見ていればよく解る。 今日の高耶は本当に精根尽き果てているようで、打ち合わせの初日からこの調子で大丈夫なのだろうかと、不安にもなってくる。 彼は嫌がるだろうが、ここは保護者として学校側に掛け合ったほうがいいのではないだろうか? 眉間に縦ジワを寄せ、そんなことまで考えはじめた直江に、高耶は再びちらりと視線を走らせてきた。 「違うよ、直江。ねーさんは悪くない」 まるでこちらの心まで読み取るよう。だからこそ意地にもなる。 「でも高耶さんがここまで疲れるなんて、今までなかったじゃないですか。高校生のお祭騒ぎに巻き込まれたあげくに体調でも崩したらどうするんです?」 「うん……」 いつになく厳しい口調に、高耶はひとつため息をついてのろのろと身を起こした。 「疲れたっていうか、いろいろあったのはホント。でも、ねーさんにちょっかい出されたせいとか、そういうんじゃなくて。 その、なんで学祭で喫茶店やろうとしてるのかとか、そこらへんがさ、もう、すごいなあって……」 そうして、高耶は、今日知ったばかりのあれこれを直江に語りはじめたのだった。 |